もう一人の自分
自分のなかに、もう一人の自分がいる。そう感じたのは一度や二度ではない。思えば、いつだって彼女の顔色をうかがいながら生きてきた。高校で、陸上を続けると決心したとき。大学受験を前に、志望校を決めたとき。どこからともなくもう一人の私が現れ、「良い選択をしたじゃん」「もっと考えた方がいいんじゃないの」と声をかけてくる。当時は、その声に耳を傾けることで、「理想」を見失わずにいられる気がしていた。
大学に入っても、その声に従ってきた。悩みを見せず、くよくよせずにいつでも明るい私。そんな人物像を保ち続けると、満足げな声がする。「私らしくていいね」
そんな生活が一変したのは、ちょうど1年前の春。本当にやりたいことをしたい、と所属していた部活をやめたときだ。それまでとは逆の生き方。「私らしくない」と責める声が響き続けた。
だが、自分自身にあらがってみて気づいた。彼女は、「他人に見せたい私」なのだということに。ずっと意識してきた「自分らしさ」や「理想」は、周囲に良く見られたくて作り上げられたものだった。こだわりもなく演じ、期待通りの他者からの評価に満足する。感じていた自己満足は、理想像を演じたことへの達成感でしかなかった。
格好いい自分だけを見せるのは気持ちがいい。だが、ありのままを見せる勇気を持とう。情けなくもがき、悩みながら泥臭くあがく。そんな私を隠すのは、もうやめだ。【筑波大・西美乃里】