新聞の価値高める舞台裏訪問

新型コロナウイルス関連の記事を分かりやすくデザインする堀内さん=毎日新聞東京本社で

 新型コロナウイルスの大流行に見舞われた今年。命に関わる必要不可欠な報道が増え、新聞の重要性はますます高まっている。そこでキャンパる編集部は、毎日新聞東京本社の二つの部署、情報編成総センター・ビジュアルグループと、情報調査部を訪ねた。どちらも、新聞が伝える情報について、読者が理解を深めるための大切な役割を担っている。話を聞いたのはそれぞれ、堀内まりえさん(29)と、湯浅聡さん(57)。15日から始まる新聞週間に合わせて、普段は読者の目の届きにくい新聞制作の舞台裏を紹介したい。


デザインでメリハリ 情報編成総センター・ビジュアルグループ 堀内まりえさん

 新聞を広げたとき、ぱっと目に飛びこんでくる地図やイラスト、色とりどりのグラフ。これらは、文字だけでは伝えにくい情報を視覚化し、読者に分かりやすく提示する「ニュースグラフィック」と呼ばれるもの。朝刊、夕刊、ウェブサイトに向けて、新聞社のデザイナーは日々、さまざまなニュースグラフィックを制作している。この紙面の左上にある「キャンパる」のロゴも、ビジュアルグループで作られたものだ。

 堀内さんは新潟県の長岡造形大学出身。卒業後、毎日新聞社に就職し、ビジュアルグループに配属されて今年で7年目だ。普段の出社時刻は昼過ぎから夕方ごろで、作業は深夜にまで及ぶ。仕事量は日によってばらつきがあり、多い日には次々と依頼が来るという。扱うのは政治、経済などの硬派ニュースから医療分野、生活情報など幅広い。また当日や翌日の紙面と並行して、制作に1カ月ほどかかる特集記事のデザインも手がける。

 こうした仕事は、記者の原稿を受け取った編集記者から依頼されるそうだ。そこで、どのようなテーマで、求めるグラフィックはどういったものかざっくりとした指定を受ける。だが、同種の情報に日々接する新聞社の社員が見て理解できることでも、情報の受け手である一般読者には分かりづらいことも多い。

 堀内さんは依頼をそのままうのみにせず、時には自分がより読者に伝わりやすいと考えるデザインを提案する。どの情報をグラフィックで強調すべきか。実際に現場を取材し原稿を書いた記者や編集記者と、綿密なやりとりをすることがとても重要だ。

 大学では視覚デザインを学んだ堀内さん。「情報を人に分かりやすく伝えたい」という思いから、新聞社のデザイナーに。もともと絵を描くことが好きで、勤務外でも何かを描く習慣が身についている。限られた時間内ですばやくグラフィックを作るためには「日ごろから軽いスケッチをするなど、何より手を動かすことが大事」だという。

 今まで関わった中で一番印象深い紙面は「九州北部豪雨1年 松末小の歩み」(西部本社版朝刊、2018年7月5日掲載)。被災した子どもたちの言葉が、SNS(ネット交流サービス)での会話風に並ぶ特集記事だ。災害関連の記事は硬く、重い印象になりがちだが「編集記者の原案をもとに、今までにない災害特集にしようと思ったんです」と堀内さん。そのポップなデザインから、災害を乗り越えた子どもたちの、現在の前向きな様子が伝わってくる。

 堀内さんはデザインを考えるとき、新聞を読む読者だけでなく、仕事の依頼人である記者・編集記者の存在も意識する。「記者が伝えたいこと、読者が知りたいことを、適切に理解しやすく」。そんな思いで、パソコンの編集画面と向き合う。

 かつて新聞は活字で埋め尽くされていたが、時代を経て、視覚的にメリハリのきいた読みやすい紙面が求められるようになった。最近では、ウェブの記事に読者をどう引きつけるかが重要視され、ますますグラフィックの需要が増している。鋭い感性を持つ、若いデザイナーの腕の見せどころだ。

 取材中、堀内さんはペンを用いて、分かりやすく仕事を図解してくれた。「私たちの仕事がなくても新聞は成立するけれど、文字だけでなくグラフィックもあれば理解できる人が増える。難しい話でも、ちょっと読んでみようかなと思えるような紙面づくりに貢献したい」。そして「(記者や読者に対する)思いやりを忘れないデザイナーでありたいです」と、堀内さんは意気込む。その真摯(しんし)な思いは、実際の紙面を通して伝わるはずだ。【東洋大・荻野しずく】


資料守り活用助ける 情報調査部 湯浅聡さん

 毎日新聞社には、記者が記事を執筆する際に参考にする資料や情報を求め、しばしば訪れる場所がある。それが情報調査部だ。部をひと言で表すと「資料の宝庫」だと湯浅さんは言う。

 情報調査部には主に二つの仕事がある。一つ目は資料の収集と保管。毎日新聞の前身である東京日日新聞が創刊された1872(明治5)年以来、毎日刊行される紙面の現物である新聞原紙、自社が刊行した書籍はすべて保管している。

 また他紙も含めた事件や著名人に関する切り抜き、皇室関係やオリンピックなどの実際に紙面に掲載された紙焼き写真、新聞紙面を映写機で閲覧するためのマイクロフィルムも膨大な量を保管している。

 こうした現物資料とともに、毎日刊行される新聞記事は1本ずつすべてデジタル化され、データベースとして構築している。このデータベースの管理も、情報調査部の仕事だ。

 データベースで過去の記事の検索は容易となっているのに、なぜ今でも原紙やマイクロフィルムの保管を続けているのか。湯浅さんによると、デジタル技術は今も日々進歩しており、システムが今後改良され、今とは異なる形式になった場合、もう一度データを入力し直さなければならない可能性もあるそうだ。そうなると必要になるのはやはりオリジナルの現物資料。現物の方が情報を永久的に保管・活用できる利点がある。「紙とデジタルの両方でバランスをとりながら、情報を残していく必要がある」と湯浅さんは話す。

 資料では、新聞社の刊行物のほか、記者の参考になるような各種の本や雑誌、企業の社史などの非売品まで7万冊もの書籍を収集している。実際に情報調査部には、図書館のように多くの出版物が置かれていた。

同僚の部員とともに資料の整理をする湯浅さん(手前)=毎日新聞東京本社で

 もう一つの仕事がレファレンスだ。記者の相談に応じて参考になりそうな資料を探し、提供する。部には膨大な資料のほか、欲しい情報を検索するシステムが充実しているが、それでも「求められた情報を探すのは簡単ではない」という。

 相談に来る記者の中には、日付やキーワードなどの手掛かりがはっきりしないケースや、勘違いで手掛かりとなる情報が間違っているケースもある。記者は締め切りに追われている。少しでも早く、より目的に沿った情報を提供するためには、情報調査部員が「記者の知りたいことをうまく聞き出す力と、自分自身が日ごろから幅広くニュースに関心をもつことが重要だ」と湯浅さんは感じている。

 湯浅さんはまた、記者の年齢などを考慮に入れて、情報を提供している。特に「若い世代の記者は、自分が育った後の本を探そうとする傾向がある」そうだ。自分が生まれる前に書かれた本は存在すら知らないことが多い。記者が知りたいことで、古くに書かれた基礎的な文献があれば、それも紹介するという。

 湯浅さん自身は、スポーツを取材する運動部記者を経て、2013年から情報調査部で働いている。多くの資料に触れるうちに、「明治の頃から続く日本の新聞史に興味を持ち、新聞社の人間として新聞史を学ぶ重要性を感じた」という。

 最近の仕事で印象に残っていることは、元号が令和に改元された際、出典である「万葉集」や、そのほかに候補として挙がった元号の出典を調べたことだそうだ。仕事で、やりがいを感じることは「自分の提供した情報が記事に反映されること」と湯浅さんは言う。手柄としては見えにくいが、記者の後方支援として紙面をより詳しく、豊かなものにしているのだ。

 現存する日本最古の新聞社として約150年守り抜いてきた資料の価値は高い。「明治時代からニュースを記録し続けた新聞は文化財とも言える。先輩方が残してきた貴重な資料の数々を、利用できる状態を保ちながら残し続けていきたい」と湯浅さんは語った。【日本女子大・鈴木彩恵子、写真は東洋大・佐藤太一】

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