すたこら:「言葉にしたけれど」

昔から自分の意見をはっきり主張するタイプではなかった。かといって、考えなしに周りに同調ばかりしてきたわけでもない。「もっとこうしたらいいのに」。そんなふうに心の内でぼやいて、言葉を発するのを避けてきただけ。自分の発言で物事が予想外の方向に進んでしまったらと思うと、怖かった。

 そんな私が初めて真剣に恋をしたのは、つい半年前のこと。同じ大学で知り合った彼は、自分なりの確固たる信念を持ち、思ったことはきちんと言葉にする。振る舞いはとても無邪気だけれど、志は高く、行動は真面目。自分にはない強さをまとった彼に、最初に抱いた感情はあこがれだった。

 彼と親しくなり、その言動に刺激を受けて、今まで内にとどめていた言葉たちが自然と外に出るようになった。ささいな疑問だとか、ちょっと背伸びした理想論だとか。それらを前向きに発信できるようになったのは、彼のおかげだ。あこがれは次第に、恋心へ変わっていった。

 先月、感謝とともにその思いを打ち明けた。大事な気持ちこそ隠し持ってばかりだった私が、面と向かって「好き」だなんて。でも、告白できるほど私を強くしてくれたのも君だったなあと、帰り道で涙が止まらなくなった。

 あのとき発した自分の言葉が、この先も続くはずだった友人関係にひびを入れてしまった。後悔はないけれど、「『ありがとう』なんて、ずるいよ」。そんなぼやきは、直接言葉にはできなかった。【東洋大・荻野しずく】

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