すたこら:物語の裏側

 眠るとき、必ず右半身が下にくる。幼少期から昨年まで住んでいた部屋では、ベッドサイドのライトが右側にあったからだ。眠る前にいつも本を読んでいた私は、自然と右を向いて眠るようになった。

 きっかけは母だ。小学生の私に、母が貸してくれた一冊の本。当時の自分には手の届かない、タンスの上にあった「大人の本」は、児童文学しか知らない私には新しい出合いだった。それから書店に通うようになった。ページをめくるたびに興奮し、時には泣く。10代の私にとって、読書は一番のエンターテインメントだった。

 だが、いつからだろう、その熱はなくなった。最近の眠る前のお供は、スマホで見るアメリカの連続ドラマ。ついつい見てしまうが、特に感動はない。

 成長するにつれ、物語の裏にいる、書き手を意識するようになった。文字だけで人の心を動かす、「小説家」という人たち。憧れが同時に、凡庸な自分との違いも浮かびあがらせる。心の内を赤裸々に描くことも、世界を独自の視点で切り取ることも、自分にはできない。出合った文章が素晴らしいほど感じる、ちょっとしたむなしさ。小説家になりたいわけではない。だが、妙にもやもやした感情が残る。

 だから、この「すた・こら」を書いている今も、少し気が沈んでいる。内面をさらけ出せと言われて書き始めると、気付くのは自分の中身の無さだけ。自意識にとらわれず、幼い日のように純粋に言葉に向き合えたら、何が書けるだろうか。【東洋大・佐藤太一】

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