第96回箱根駅伝 総合7位、早稲田粘りの力走

 雲ひとつない青空の2~3日、正月恒例の第96回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)が開催され、20大学と関東学生連合の計21チームが総距離217・1キロの箱根路を走り抜けた。今回キャンパる編集部は、上位復活を目指す早稲田大学競走部に密着。総合7位でフィニッシュした彼らの力走に迫った。【箱根駅伝取材班】


□レース展開

 新記録が続出する歴史的な大会の中で、伝統のある早稲田大も健闘した。

 1区から解説者も驚くほどのハイペースな展開。中谷選手はトップと17秒差の6位で中継所へ。2区でも太田兄弟の兄・智樹選手が区間6位の好走。先頭を走る場面もあり、主将の意地を見せた。首位と1秒差の2位でタスキを受けた3区・井川選手だったが、順位を落とし8位。4区・千明選手、山上りの5区・吉田選手が粘り、シード圏内の9位で往路を終えた。

 一夜明け復路。6区で半沢選手が苦戦したが、続く7区の鈴木選手が区間2位の走りで順位を上げる。良い流れをそのままに、8区で太田兄弟の弟・直希選手、9区で新迫選手がともに区間4位と健闘。10区・宍倉選手が激戦を制し総合7位でゴール、シード権を獲得した。


1区 中谷雄飛選手  世界を視野、感謝のレース

レース終盤、苦しみながらも粘り強く走りきった中谷選手
レース終盤、苦しみながらも粘り強く走りきった中谷選手

 スーパールーキーとして注目された昨年同様、任されたのは1区。序盤から前に出て集団をリードする展開となった。区間6位ながらも「ハイペースな流れで攻めの走りができた」とうなずく。レース後はすがすがしい表情を見せた。

 競技でも生活面でも、他人のペースに合わせるのが苦手な中谷選手。持ち前のマイペースを生かした走りは、勝つための独自のスタイル。周りに比べ強度の高い練習をこなすなど、強気の姿勢だ。

 そんな中谷選手が見据える先は、五輪や世界選手権のトラックレース(5000、1万メートル)で、「日の丸」を背負って競うこと。

 相楽監督も中谷選手の意思を尊重しており、練習もある程度自由にさせてもらっているという。だからこそ、「監督から(箱根駅伝に)力を貸してほしいと言われれば全力で」。日ごろの感謝も込めてレースに臨んだ。

 本人いわく、「20キロ走れる体力があればトラックでも戦える」。駅伝での経験を一つのステップにして、世界を目指し駆け上がる。


4区 千明龍之佑選手 2人で早稲田のエースに

最後まで諦めずに力強い走りで前を追った千明選手

 予選会は参加資格10位以内のうち9位となった早稲田大。復活が危ぶまれていた昨年11月、全日本大学駅伝で全体6位の立役者となったのが千明選手だった。

 けがが続いた前半期も「走れない期間も大事かな」と前向きに捉え、フォーム修正や筋力トレーニングに専念。つらい時期を乗り越え、今大会は4区7位の成績を残した。

 1区を走った中谷選手は負けたくない仲間だ。2人を筆頭に実力のある2年生たちは仲も良く、千明選手は全日本後に太田兄弟の静岡の実家に泊まったそうだ。スキー場や温泉で有名な地元、群馬県片品村にも「みんなを呼びたいですね」と話す。

 走り出す直前、中谷選手が「千明いけー!」とツイッターで激励。前半から飛ばし、最後は前との差を詰める粘りを見せた。ただ流れを変える走りができず自己評価は60点。ライバルからのエールは後で知ったと笑った。

 「これからは、中谷とダブルエースと呼ばれるように頑張りたい」。早稲田完全復活のために高みを目指す。


9区 新迫志希選手 「今の自分」最大限に発揮

「4年間の集大成」にふさわしい走りを見せた新迫選手

 「憧れの選手はいない。自分は自分という意識を持って走っている」。揺らがない芯を持ち、レース前にそう語った新迫選手。当日は任された9区で駒沢大との死闘を制し、区間4位の好成績を収めた。

 趣味は、植物の栽培だという。今は、サボテンとガジュマルを育てている。「植物に話しかけるので、周りの人に心配される」と笑う。日常の一コマからも、自分らしさを貫く様子をのぞかせる。このマイペースぶりが、自分の走りに集中するという、強さの軸になっているのだろう。

 とはいえ、けがで思うように走れず、陸上から逃げたいと苦しんだ時期もあったそうだ。最近になってようやく「つらかった時期があったからこそ、今こうして走れる」と思えるようになったという。

 苦しかった過去も糧とし、他の人や過去の自分と比べず「今の自分」を最大限生かすことに力を注いだ新迫選手。走り終え「悔いはない。前の区間で頑張ってくれた後輩たちの思いをつなげられた」と、有終の美を飾った箱根駅伝を晴れやかな表情で振り返った。


2区 太田智樹選手・8区 太田直希選手
高め合いチームに貢献

ともに区間順位1桁とチームに貢献した
兄の太田智樹選手(左)と弟の直希選手

 中学、高校と同じ陸上部に所属してきた2人。大学でも競走部内に兄弟がいることに「当たり前の存在」と両者の答えは一致する。しかし弟・直希選手は「中学時代は嫌だった」と当時を振り返る。

 兄・智樹選手は中学3年の時、全日本中学校陸上選手権の男子3000メートルで優勝。全国トップクラスで活躍する兄と比べられることもあり、直希選手は重圧を感じていたという。それでも同じ道を選んだ理由は「兄が順調に強くなっていく姿を見て、自分も同じように強くなれると思ったから」だという。

 昨年の箱根について、智樹選手は「チームがあの順位(総合12位)だったのは自分の責任。調子が上がらず、できることならやめたかった」と悔しさをにじませた。けが明けの状態で各校のエースが集う2区を任されたが、結果は最下位から2番目の区間21位。その分、今年の箱根にかける思いは強い。「任された区間で自分の役割を全うしたい」と話していたように、2区を区間6位で、一時は先頭に立つなどチームに勢いをもたらした。「少しでも早く(3区の)井川に渡したかった。チームに貢献できて良かった」と主将としての役目を果たした。

 2度目の箱根に挑んだ直希選手は、8区を区間4位と力走した。「声援が力になった。自分の走りができたと思う」と自身の走りを振り返る。

 智樹選手は卒業後、トヨタ自動車で競技を続ける。理想として掲げる選手像は「記録よりも勝負の世界で勝ちきる選手」。大学陸上での成長を糧に、新たな舞台での飛躍を誓う。


早稲田大学競走部 相楽豊・駅伝監督
自主性尊重「常識を打ち破れ」

相楽豊・早稲田大学競走部駅伝監督

 選手時代から早稲田大競走部に携わってきた相楽豊監督(39)。礼儀を重んじ、学生自治で進める「早稲田らしさ」はずっと変わらないという。自主性を大切に、個々の特徴を伸ばす指導を心がけている。

 結果に関わらずチームの注目度は高い。さまざまな声もあるが、期待と捉え、力に変えてきた。「強い早稲田」に憧れて入学した学生も多い。今度は自分たちが作っていくという意識が、自然と引き継がれているという。「強さとは本番の舞台で勝てる力。記録はあくまで過去の自分が作った、名刺のようなもの」

 今年のチームに対し「上級生が走りや行動で皆に手本を示している。学年全体が部の柱」と信頼を寄せる。「エースに頼らない全員駅伝で総合3位以内を目指す。いろんな経験を積んできたこのチームで勝ちたい」と意気込んだ。

 迎えた本番。力を出し切った選手たちをねぎらう監督の目には、涙があった。「全体のレベルが上がっていく中、自分の常識を打ち破っていってほしい」と選手の今後に期待を寄せた。

■相楽豊(さがら・ゆたか)さん
 1980年生まれ、福島県出身。2003年早稲田大人間科学部卒。1、3年時に箱根駅伝に出場。4年時は競走部キャプテンを務める。卒業後は福島県の高校教員を経て、05年に同部長距離コーチ、15年より駅伝監督。


記録

区間  選手名   学年 タイム     区間 総合

1区 中谷雄飛  2年 1.01.30 (6)  (6)
2区 太田智樹  4年 1.07.05 (6)  (2)
3区 井川龍人  1年 1.03.52 (14) (8)
4区 千明龍之佑 2年 1.02.25 (7)  (8)
5区 吉田匠   3年 1.13.56 (15) (9)

往路          5時間28分48秒 9位


6区 半沢黎斗  2年 1.00.49 (19)  (12)
7区 鈴木創士  1年 1.02.56 (2)  (9)
8区 太田直希  2年 1.05.30 (4)  (9)
9区 新迫志希  4年 1.09.17 (4)  (8)
10区 宍倉健浩  3年 1.10.23 (8)  (7)

復路           5時間28分55秒 5位


総合          10時間57分43秒 7位


箱根駅伝取材班

 風間健(成城大)▽川平朋花(一橋大)▽小林千尋(昭和女子大)▽廣川萌恵(早稲田大)▽太田満菜(上智大)▽佐藤太一(東洋大)▽高橋瑞季(東京大)▽畠山恵利佳(津田塾大)▽荻野しずく(東洋大)▽川畑響子(上智大)▽増田裕太(静岡大)▽眞野彩香(同)

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