2019/09/24 秋のおすすめ本

 夏休みが明け授業が始まるこの時期、憂鬱な気分になる人も多いことだろう。そんな時は、ゆったりと本の世界に浸るのはどうだろう。新入学の春、読書の秋恒例のおすすめ本特集。今回は「大学生」をテーマに、キャンパる記者5人がおすすめ本を紹介する。あなたも気になる1冊をぜひ見つけてほしい。(書名、著者名、出版社、発行年、価格の順)【まとめ、学習院女子大・渡口茉弥】


1 「キッチン」吉本ばなな(角川文庫)1998年 432円

 愛する家族や恋人。ある日突然、大切な誰かを失ってしまった時、どう乗り越えていけばいいのだろうか。ロングベストセラー作品として多くの人々に愛され続けているこの本には、「大切な人の死」と「心の再生」をテーマとした3作の短編が収録されている。

 表題作は唯一の身内であった祖母を亡くし、天涯孤独の身となった大学生の桜井みかげが主人公。田辺家との出会いを通して少しずつ祖母の死を受け入れ、悲しみを乗り越える姿が描かれている。

 重く暗い内容が扱われているが、柔らかな文体と豊かな感情表現、丁寧で繊細な人物描写により、読み進めるにつれて温かく優しい気持ちで満たされていく。また、何気ない日常が描かれているからこそ、自然と物語の中に引き込まれてしまう。読み終える頃には、冒頭の問いの答えを見つけることができるかもしれない。【立教大・明石理英子】


2 「天才はあきらめた」山里亮太(朝日文庫)2018年 670円

 先日、結婚を発表し世間をざわつかせた、南海キャンディーズの山里亮太さんのエッセー。「天才はあきらめた」というセンセーショナルな題名にひかれた。

 題名通り諦念にあふれたエッセーかと思いきや、まあびっくり。そこにいたのは、お笑いのセンスに恵まれて大活躍している山里さんではない。つづられているのは、怒りや嫉妬、虚栄といった痛々しい負の怨念(おんねん)だ。

 しかし、同時に子どもの頃の小さな体験を胸に抱き、夢をかなえるべく血みどろになりながらはいつくばる、どうしようもなくいとおしい一人の人間の姿でもある。

 作中には筆者の大学生の頃のエピソードも登場する。何者かになれるかもしれないというぼんやりとした夢を持ちながらも、現実とのギャップに苦しんでいるあなたへ。「天才」ではないけれども、「努力の天才」からの魂のエッセーだ。【早稲田大・今給黎美沙】


3 「不便益のススメ―新しいデザインを求めて」川上浩司(岩波ジュニア新書)2019年 864円

 便利な世の中で、不便がいったいどんな益をもたらすのか。そんな疑問から手にしたのがこの本。効率化ばかりが推進される現代で見落としがちな、別の視点に気づかされるはずだ。

 著者は京都大学でデザイン学ユニットの特定教授(工学博士)を務めている。あの「素数ものさし」の制作にも携わった一人。

 そのものさしは、京大オリジナルグッズとして名高い。驚くことに、2、3、5、7、11……と目盛りがすべて素数。長さを求めるにはちょっとした計算が必要だ。たしかに利便性には欠けるが、同じ長さでもさまざまな測り方が試せて面白い。

 素数ものさしに限らず、本書が取り上げるのは「不便だからこそ面白い」モノやコトばかり。スマートフォンを持たずに知らない街を散策する、というのは今すぐにでも実践できそうだ。思いがけず、すてきな出合いが待っているかもしれない。【東洋大・荻野しずく】


4 「半径5メートルの野望 完全版」はあちゅう(講談社文庫)2016年 648円

 皆さんは、はあちゅうという方をご存じだろうか。ブロガーなどとして活動する、今最も影響力がある一人だ。

 著者は、元々普通の女子学生。引っ込み思案だった自分を打開したい一心で、積極的に活動の幅を広げていく。その結果、スポンサーを募って世界一周を無料で実現するなど異例の功績を持つ。

 本書では、著者の経験した葛藤や教訓を通じ、理想とする自分に近づく方法について語られている。特に、大学時代の実体験を多く用いているので共感しやすくなっている。

 中でも私が印象に残っているフレーズは「夢はかなえ続けるもの」。まずは小さい目標を立てる習慣をつける。その目標を達成し続けることで、大きな目標の達成につながるというものだ。やりたいことが見つからない、始める勇気が出ない。そんな方にお薦めの一冊だ。【大妻女子大・中嶋美月】


5 「盲目的な恋と友情」辻村深月(新潮社)2014年 1620円

 一瀬蘭花は、タカラジェンヌの母を持つ、美しい女性だ。彼女は大学でオーケストラに入団する。そこで出会ったのは、プロの若手指揮者である茂実星近(しげみほしちか)、オケの同期である傘沼留利絵。茂実とは恋人として、留利絵とは友人としての距離を縮めていく。だが、ある出来事により茂実の指揮者としての人生は閉ざされる。そして3人の関係は、いびつなものに変化していく。

 私には周りが見えなくなるほど振り回される恋や友情など無縁だ、最初はそう思って読み進めていく。けれど、周りに説得されても茂実の甘い言葉一つで彼にとらわれてしまう蘭花、自分の容姿に引け目を持っているからこそ美しい蘭花に執着する留利絵。登場人物の持つ欠点は、私にもどこか重なるところがあると気づかされる。盲目的な恋と友情にとらわれる登場人物と同じように、あなたもこの物語の魅力にからめとられるはずだ。【東京大・髙橋瑞季】

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