2019/04/09 会いたい人

東京マラソン日本人トップ 堀尾謙介選手

毎年、国内外のトップランナーが集い、激しい首位争いが繰り広げられる東京マラソン。先月3日、その大会を日本人トップで制し、同時に東京オリンピック代表選考会(MGC)の切符を手にしたのが、中央大4年(当時)の堀尾謙介選手(22)だ。箱根駅伝の大ファンである記者は、名門校のエースの快挙に居ても立ってもいられず、憧れの選手へ会いに行った。【津田塾大・畠山恵利佳】


試練越え、走る喜び

 東京マラソンから約1週間後の9日、記者は中央大学陸上競技部員が生活する東豊田寮(東京都日野市)を訪れた。取材当日は彼にとって、退寮する前日であり、大学で最後の練習日。思い出の詰まった多摩キャンパスのグラウンドで、これまでの競技生活を振り返った。

 堀尾選手は今大会で、2時間10分21秒のタイムで日本人トップ、全体5位の成績を収め、一躍脚光を浴びた。自身にとって初のフルマラソンであり、学生で初めてMGC出場権を獲得したのだ。

 本格的なマラソン練習に充てた時間はわずか2週間。「もっと上を目指せるのではないかという可能性を感じた大会だった」と振り返る。「(自身が掲載された)スポーツ紙は全て買った」。ゴール直後には倒れ込む場面もあったが、緊張の糸が切れて体に力が入らなかったのだという。「もっとかっこよくゴールすれば良かった」と笑った。

 陸上を始めたのは中学生の時。小学校のマラソン大会で毎年上位に入っていたことから、適性を感じたそうだ。ずば抜けて速かったわけではないが、持ち前のポジティブ思考が功を奏した。その後、長距離の名門、須磨学園高校(神戸市)から箱根駅伝の最多出場・最多優勝を誇る、中央大学へ進学。順風満帆に見えるが、大学の4年間の競技生活は試練の連続だった。

 1年次は高校とのギャップに苦しみ、本来の力をなかなか発揮することができなかった。2年次の下半期には、初めて大きなけがを経験し、走れない日が続いた。その分「走れることの喜びを感じた」期間だったという。

 同時に、この年は中央大の箱根駅伝連続出場記録が87回で途切れた年でもあった。堀尾選手は、記録の残らない関東学生連合チームのメンバーとして2区を走った。だが、悔いの残る結果となり、3年次のリベンジを誓った。この時のことは、大学時代の大会の中で最も印象に残っているという。

 最も起伏が激しかったのが、2018年度の4年次。2度のスランプを味わった。

 昨年4月下旬、兵庫の大会から戻ると突然の発熱。原因不明の体調不良が続き、1カ月もの間走れなかった。「なぜこんなに陸上を頑張っているのか」と気持ちがポッキリ折れたという。また7月の夏合宿が始まってすぐのこと、調子が上がらず朝のうちに合宿所から電車で寮に一人帰り、その後1週間はチームと合流せずに過ごした。

 そんな時、どうやって気持ちを立て直したのか。「自分は短期集中型。競技を続けていく上で大切なのは、きちんと休みを取ることだった」。選手にとって走らないという選択は勇気のいることだろう。

 一度競技から離れ、気持ちを整理する時間を作った。そして「飽き性の自分がここまで続けてこられたのは走ることが好きだから」と再確認。「自分には陸上しかない。陸上をもっとやっていきたい」と競技に対するモチベーションもより高まったという。

 その後は順調に練習を積み、本来の走りを取り戻していった。昨年11月には、5000メートルで昨季学生トップの記録をたたき出す。今年1月の箱根駅伝では花の2区で好走、伝統校のエースとしての意地を見せた。「苦しいことも悔しいこともたくさんあったが、最後に大きな結果を出せてよかった。(この4年間は)自分で考えることの大切さを知り、人間としても成長できた期間」と語る。

 また、与えられたメニューをその通りにこなしていた高校時代とは異なり、大会も日々の練習も、自分で考えて行動したことが、徐々に結果に表れたという。

 堀尾選手の強さの理由は、体の特性と練習環境にある。一つは、ランニングエコノミーが非常に高いこと。アキレスけんが人より長いことで脚のバネを利用し、効率の良い走りができるのだという。もう一つは、日々の練習から川沿いの冷たい風が吹く道や、寮からグラウンドまでの上り坂でトレーニングを行っていたこと。今回の東京マラソン当日は雨で気温が下がり、低体温症になる選手が何人も出たほど過酷な状況だった。しかし、堀尾選手はそれに動じない強さを身につけていたのだ。

 堀尾選手の寮での生活や普段の様子を聞いた。

 休みの日は買い物や食事に出かけることが多く、スイーツのお店を巡ることも。一方で、一日中部屋にこもっている日もある。夕食の時間になり、やっと自室から出てきたかと思えば、スポーツをやっている人とは思えないほどの猫背で登場し、部員の笑いを誘ったという。また、パスタなど簡単な食事を自炊することもあったそうだが、なぜかお皿を持っていなかった。そのため、部員からお皿を借りたが退寮の日まで使い回していたというエピソードも。

 調子に乗った記者は、気になる恋愛事情も聞いてみた。本人いわく、恋愛が順調な時は競技面の調子も良いそうだ。好きなタイプは「優しい人」と答えながら、恥ずかしそうに両手で顔を覆った。先ほどまでインタビューに答えていた競技者の顔とは一変。貴重な一面を垣間見た。

 箱根ランナーとはいえ、学業にも手は抜けない。だが3年次のとき、テスト期間を把握しておらず、テストが受けられなかったことも。学生としてはひやっとする話だがその後、きちんと単位を取得。3月はじめに卒業が確定し一安心の様子だった。

 4月からは愛知県のトヨタ自動車陸上長距離部で競技を続ける。憧れの先輩たちとチームメートとして切磋琢磨(せっさたくま)し、今年9月に行われるMGCへ挑む。「陸上は結果を出さないとメディアで取り上げられない。もっと活躍して、注目を浴びたい」と意欲を燃やす。もともと目立ちたがりな性格ということもあり、注目や期待が力になっているという。「メガネランナーとして顔を覚えてほしい」

 無限の可能性を秘める堀尾選手。今後の活躍から目が離せない。


■ MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)
 2020年東京オリンピックの日本代表選考会。17年夏~19年春に行われる指定の競技会でレースごとに定められた順位とタイムの基準を満たした者、もしくは国際陸上競技連盟が世界記録を公認する競技会において条件を満たした者にMGC出場権が与えられる。男子はこれまで服部勇馬選手(トヨタ自動車)など30人が出場権を獲得している。


■人物略歴:ほりお・けんすけ
 1996年生まれ、兵庫県出身。中央大経済学部卒。4月からトヨタ自動車所属。183センチの長身のスタイルと黒縁メガネがトレードマーク。箱根駅伝では3年連続で花の2区を走った。甘いものが好き。特に好きなのはパンケーキ。

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