人工的に作った空間を現実のように感じさせるVR(仮想現実)技術。VRを駆使したコンテンツの制作に取り組む大学のVRサークルが一堂に会する「全国学生VRサークル活動報告大会」というイベントがある。VRを通してさまざまな未来を見据える主催者、参加者たちを取材した。
VRは、専用のゴーグルを装着してコンピューターで作成した360度の映像を視野に入れ、実際にその空間にいるような感覚が得られる。室内にいながら、物語の主人公になったり、世界中のどこでも旅したりすることが可能だ。
大会は、参加サークルがそうしたVRコンテンツ制作の成果などを披露し、交流する目的で開かれている。主催するのは東京大学のVRサークル「UT-virtual」。他大学の学生も含め現在約100人のメンバーが所属し、コンテンツ制作のほかVR技術の普及啓蒙(けいもう)も志す同団体が、2018年に初開催した。
今年の大会は10月26~27日に開催され、北海道から沖縄県まで、全国各地から17団体が参加した。ただVRサークルの催しらしく、大会は特定の会場に学生らが実際に集まるのではなく、仮想空間上に用意された会場(プラットフォーム)で行われた。
VRコンテンツ制作の面白さをUT-virtualのメンバーに尋ねたところ、工学部4年の山田薫さん(21)は「作って終わりではなく、多くの人に体験してもらい、感動してもらうこと」だと語る。ただ、大人数で制作を行うものもあり、理科1類教養学部1年の代田瑛大さん(20)は「チームで足並みをそろえるのがとても大変」と話す。また学外メンバーの室蘭工業大学理工学部4年、義盛幸多さん(21)は「まだ体系化されていない分野のため、初心者が手を出しづらい」と語った。
そうした魅力や悩みを共有し、交流を深め、VR愛好者を増やそうと始めたのが、この大会だった。
コロナ禍の巣ごもり需要でVRは一時的に高い注目を浴びた。しかし現在はその目新しさも薄れつつある。UT-virtualでは、VRは実生活でどう役立つかに関心の焦点は移りつつある、と受け止めているという。
参加団体の報告内容を見ても、年齢や障害の有無にとらわれず参加できるVRの利点を生かし、地域の盛り上げを図る取り組みなどがあった。エンターテインメントの盛り上げや、視覚情報だけでなく外部からプラスされる情報での新しい体験を可能にするチャレンジも見られた。それぞれの参加団体が見ている世界は幅広い。VRという一つの技術を通して、より面白い社会を作り出すことが可能なのだと思った。
マニアが遊ぶ時代から、一般家庭に普及する時代へ。UT-virtualは、日本中の人々が現実社会のさまざまな障壁を乗り越えて仮想空間上で交流する社会の実現を目指し、今後もVR技術の普及活動を続けていくという。【昭和女子大・薄井千晴】