「10代が個性を手放さずに成長できる世界を作りたい」。そんなコンセプトに基づいて、さまざまな10代の若者たちの一瞬を切り取るウェブメディアがある。2021年12月に小学館の新プロジェクトとして始動した、「Steenz」だ。自分らしさを模索する若者のリアルな思いや姿に迫ろうとする取り組みを取材した。【明治大・米林爽氷】
Steenzは、政治、経済や環境、ジェンダーなどの硬派な話題から、芸術やエンタメなど趣味・娯楽系の話題まで、10代の好奇心を刺激するような幅広いジャンルの記事を毎日無料で配信している。在籍するスタッフは40人ほどだが、そのうち9割以上が学生で、運営や取材は学生スタッフを中心に行われている。
Steenzは、小学館のデジタル事業局に在籍する渡辺景亮さん(39)が立ち上げた。きっかけは仕事柄、常に若者層の意識動向にアンテナを張っている渡辺さんが、SNS(ネット交流サービス)の使い方について、「いかに注目を集めるかにとらわれて、自分の個性を押し込めてしまっているのではないか」と疑問を感じたことだったという。
ただその疑問は、渡辺さんが実際に10代の若者らに会って取材をし、彼らが異なる価値観を認め合いながら、それぞれの興味分野に突き進む姿を目の当たりにしたことですぐに解消されたそうだ。「インターネットの世界から見えてくる若者像とは異なった、多様性の時代を生きるリアルな若者の姿を捉えたい」。そんな意欲が湧いた渡辺さんが新規に企画書を書き、チームメンバーを集めながらSteenzを立ち上げた。現在もプロジェクトリーダーを務めている。
価値観認め合い交流
メインコンテンツは10代の若者のインタビュー記事「気になる10代名鑑」だ。取り上げるのは、世の中のトレンドに左右されず、自分自身の興味・関心を貫いてさまざまな分野で活躍する若者たちだ。取材をした10代は780人を超えた。
そして「気になる10代名鑑」に登場した若者たちをメンバーとする交流の場(コミュニティー)を設けているのも、Steenzの大きな特徴だ。スタッフ公募をきっかけにSteenzに参加し、現在はイベントディレクターとして活動するフリーランスのエディター、宮木快さん(26)は、これまで交わることのなかった異なる価値観や情熱を持つ10代が一堂に会するSteenzのコミュニティーを「多様性の権化」と表現する。
また、Steenzのコミュニティーやイベントの運営に携わっている慶応大4年の倉田速音さん(21)は「そんな交流の場が、自分自身が関心を持つ分野以外にも敏感な10代の人にとって、興味・好奇心を刺激される場所になっている」と語る。
Steenzが発信するコンテンツは記事だけではない。「Seriously(真面目に) Kidding(ふざけた)」という名称のポッドキャスト(音声配信サービス)も手がけている。このポッドキャストではその名の通り、環境問題や日中問題といったシリアスな話題からエンタメなど娯楽系の話題まで、さまざまなテーマをSteenzスタッフである若者3人が、軽快なトーンで取り上げる。
その3人のうちの1人である宮木さんは、「何を話したら注目されるかということより、自分たちが日々暮らしている中で気になったテーマを話すようにしている」という。また、学生スタッフとして出演する国際基督教大4年の宮島ヨハナさん(22)は「ポッドキャストでは答えを出すというより、リスナーと一緒に自分が感じるモヤモヤを考えたい」と語った。リスナーから話してほしいテーマや悩み相談、質問なども寄せられるとのことだ。
安心できる「基地」に
新聞や雑誌など、既存メディアを敬遠する若者が増えているが、インターネット経由の情報に依存しすぎることには問題点もある。「最近ではSNSやネット検索サイトのアルゴリズム機能により、勝手に取捨選択された情報が一方的に送りつけられて、何気ないモノ・コトに偶然ひかれる、ということがなくなってしまった」と渡辺さんは指摘する。Steenzがコミュニティーでの出会いや交流、生の声の配信を重視するのは、「私自身が10代のときにあった、雑誌を開いて自分が気になる特集などとは違うページにあったものにひかれるような、そんなアルゴリズムの外側にある興味を若い世代に大切にしてほしい」という、渡辺さんの思いからだ。
Steenzが目指す姿について渡辺さんは「何者かになりたい若者が自分の信じた道を安心して行けるような、心理的な基地になりたいし、世界中のかっこいいもの、かわいいものとか面白いものを集めて、アルゴリズムに支配されないように彼らの好奇心を刺激したい」と話している。
一方で宮木さんは「Steenzは街と船だと思っている。集まった10代に広場みたいなものを作ってあげて、そこで自分のやりたいことが決まってくる。そして、そのやりたいことに向かって進む船を送り出すことまでがSteenzのミッションだと思うし、その取り組みをもっとやっていきたい」と話した。