この春大学に入学した新入生たちも、そろそろ新生活に慣れてきた時期だろう。ただ環境の変化に不安やストレスを感じている人も多いのではないか。そんな新入生に向けて、現役大学生であるキャンパる記者6人が、この時期にこそ読んでほしい、お薦めのマンガや、アニメ原作本を紹介する。たまには息抜きをしてみるのも良いのではないか。明日への活力になるような作品が、きっと見つかるだろう。【まとめ、法政大・園田恭佳】(価格は税込み。シリーズ作品は第1巻の価格)
◆1 「キノの旅 the Beautiful World」 作画・郷 原作・時雨沢恵一 KADOKAWA 2017年 全5巻 627円
新たな視点持ち前向きに
何かに悩み考え込むと、気づかぬうちに視野が狭くなり、下を向いてしまいがちだ。そんな時、「旅」に出てみてはどうだろうか。
この作品は、旅人のキノが二輪車の相棒エルメスと共に、世界中のさまざまな国を旅する様子を描いた短編集である。一つの国に3日間しか滞在しないというルールで、淡々と進む物語。クスッと笑えるユーモアや皮肉が織り交ぜられ、どこか寓話(ぐうわ)的で考えさせられる要素が多いのが特徴だ。
キノたちは旅する中で、独自の文化に法律、技術を持った国々やそこに暮らす人々と出会う。人を殺すことができる国、複数恋愛をすることが法律で定められている国など、当たり前だと感じていた常識が覆されるような話も少なくない。多様な価値観に触れることで、自分自身を見つめ直し、視野を広げるきっかけにもなるだろう。
独特の世界観に浸りながら登場人物たちと共に旅に出かければ、新たな視点を得ることができ、今よりも少し、前向きな自分になれるかもしれない。【法政大・園田恭佳】
音大生の成長に目離せず
恋、葛藤、クスッと笑えるハプニング。音楽大学のオーケストラを舞台に繰り広げられる話の数々には、青春が詰まっている。
この作品は、ピアノ科の野田恵(愛称のだめ)と、ピアノ科だが指揮者を目指す先輩の千秋真一を中心に音大生の成長を描く。のだめは楽譜に縛られず、歌うようにピアノを弾く。幼稚園の先生を目指していた彼女の作った「おなら体操」など、笑いどころは満載。千秋の音楽への熱意に刺激を受け、プロを目指す彼女の成長から目が離せない。
私のとっておきは、千秋が指揮をする定期公演の演奏シーン。個性豊かなメンバーたちが、楽器を上に掲げたり、回したりして自由に表現する。漫画で音は聞こえなくとも、登場人物の表情や一挙一動が丁寧に描かれており、クラシック初心者でもこの一体感は楽しめるに違いない。
サークルや授業のプレゼンテーションなど、大学生活で仲間との協力が必要な場面は多い。共にものを作り上げる楽しさを教えてくれる作品だ。【上智大・佐藤香奈】
◆3 「ハイキュー!!」 古舘春一 集英社 2012年 全45巻 484円
「頂」目指す仲間探して
「頂の景色」。この作品に登場する印象的な言葉だ。コート上で最も高く跳んだ者にしか見えない景色。主人公の日向翔陽はバレー部所属の小柄な高校生。かつてテレビで見た、低身長ながらもコート上の誰よりも高く跳ぶ「小さな巨人」に憧れている。日向も162.8センチという低身長でありながら、仲間とともに高いブロックの先にある「頂の景色」を目指す。
バレーボールとは「つなぐ」競技である。コートにボールを落とさないよう、3度のボレーで攻撃につなげなければならない。先にある勝利には、決して一人ではたどり着けないのだ。
私はこの作品を通して、隣にいる人を大切に思う気持ちの大切さを知ってほしいと思う。一人では決して見ることのできない景色は存在する。隣にいる仲間の力を借りなければ達成できないものはたくさんある。
数多くの人と出会う新生活。小柄な日向が仲間とともに「頂の景色」を目指すように、互いの不得意を埋め合えるような素晴らしい仲間と出会ってほしい。【中央大・朴泰佑】
◆4 「BLUE GIANT」 石塚真一 小学館 全10巻 2013年 880円
自分を重ね踏み出す勇気
「世界一のジャズプレーヤーになる」という夢を抱き、テナーサックスを担いで一人上京してきた18歳の宮本大。彼はライブハウスでたまたま出会ったピアニスト、沢辺雪祈(ゆきのり)の演奏にひかれた。そこに、大の高校の同級生、玉田俊二がドラマーとして加わり、同い年の3人でバンドを組み、世界を目指してひたむきに練習を積み重ねる。
都内の大学に通う俊二は本気度の感じられないサッカーサークルの活動に飽き飽きしていた。そんな時、大の演奏を聴いてジャズに魅せられ、初心者ながらドラムを始めて必死の練習で2人に食らいついていく。
私は特に俊二と自分を重ね合わせていた。私は大学生になってダンスを始めたが、思い出に残る最高な仲間を見つけることができた。何かを始めるのに遅いということはないのだ。
大学で何か新しいことを始めようと考えている人、幼い頃から続けている趣味がある人は、きっと登場人物と自分を重ね合わせて、一歩踏み出す勇気と元気を分けてもらえるだろう。【明治大・伊藤優里】
◆5 「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」 岩崎夏海 ダイヤモンド社 2009年 1760円
偶然の出合い、視野広げる
この作品は主人公の都立高2年、川島みなみが、親友に代わって弱小野球部のマネジャーとなり、チームを改革し、成長させていく姿を描いている。
チーム運営について一切の知識を持たないみなみは、マネジャーとしての入門書を求め書店に向かう。だが勘違いで、高名な経営学者、ドラッカーの書いた「マネジメント」を手に取ってしまう。読んでいくうちに夢中になったみなみは自らのマネジャー業務に応用することを思いつき、自ら立てた甲子園出場という目標に向けて進んでいく。
難しい専門書の内容を主人公を通して理解でき、ストーリーも分かりやすく、のめり込めるのが非常に魅力的だ。みなみのように、偶然の出合いが自身の視野を大きく広げることは往々にしてあるもの。経営学の道には進まなかった私だが、この作品は初めて自分の将来をちゃんと考えるきっかけをくれた。
一見関係無さそうなことにも、ハードルが高く見えることにも、ぜひ積極的に取り組んで、自身の糧にしていってほしい。【昭和女子大・薄井千晴】
◆6 「もやしもん」 石川雅之 講談社 2005年 全13巻 627円
理想と現実、可能性を模索
本作の主人公・沢木惣右衛門(そうえもん)直保(ただやす)は発酵食品の原料である麴(こうじ)菌の培養のもととなる種菌を生産する種麴屋の息子だ。農大への進学が決まり、「チャラくて楽しい東京のキャンパスライフ」を夢見て上京した。
いざ大学生活が始まると、菌が肉眼で見えるという特殊な能力を生かして活躍する。しかし、ある日とあるアクシデントにより、一時、菌が見えなくなる。それを機に、特殊な能力のない自分の存在意義について考えるようになる。
沢木以外にも、登場人物の一人一人が、それぞれ理想と現実のギャップを抱えている。コメディー作品なのだが、苦悩しながらも自身の可能性を模索する姿が丁寧に描かれている。
私も上京し、夢いっぱいで大学へ入学した。しかし現実は思っていたより地味で平凡なもので、拍子抜けしたのを覚えている。本作は、そんな理想と現実のギャップを感じている人へ、自分がどうありたいかを考えるきっかけや、現状を少し変えるためのヒントを与えてくれるかもしれない。【早稲田大院・濵田澪水】