砂連尾理さんと「手のダンス」をする石田智哉さん=「へんしんっ!」から ©2020 Tomoya Ishida
障害者の表現活動の可能性をテーマにしたドキュメンタリー映画「へんしんっ!」。監督を務めたのは、立教大大学院現代心理学研究科映像身体学専攻の修士課程2年に在籍する石田智哉さん(23)だ。映画監督の登竜門とされる「第42回ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2020」のグランプリに輝き、注目を集めた。自身も障害を抱えている石田さんは、映画製作を通してどう「へんしん」できたのか。作品に込めた思いや、障害に対する認識の変化について話を聞いた。【立教大・明石理英子】
石田さんが映像制作に興味を抱いたのは、中学3年の時。タブレット端末を使って短編映像を作ったことがきっかけとなり、それ以来、文化祭で使う映像を作るなどして中学、高校生活を過ごした。そして、映像制作を中心に心理学などさまざまな領域について学べる点に魅力を感じ、立教大現代心理学部映像身体学科へ進学した。
在学中は「バリアフリー映画上映会」の共同代表として、障害の有無に関わらず、誰でも映画を楽しめる環境作りに挑んだ。上映会では、風景や人の動作などの情報を音声で伝える音声ガイドや、司会進行部分を文字に起こし表示する文字通訳を導入している。また、映画に登場する雪だるまを触ることで楽しめるよう、紙や段ボールで模型を作り、展示したこともあったという。「特に視覚障害者の方に、どのようにして映画の世界観を伝えるか、試行錯誤することが多かった。そしてこの経験が、オープン上映という形での劇場公開につながった」と石田さんは語る。
オープン上映とは、日本語字幕をスクリーンに投影し、音声ガイドを劇場内のスピーカーから流す上映形式だ。気づいたことや発見したことを劇場内にいるみんなで共有したい。そんな石田さんの思いから、「へんしんっ!」の劇場公開ではオープン上映が導入された。記者も実際に劇場で体験してみると、不思議な感覚に襲われたのもつかの間、気づけば字幕も音声ガイドも映画の演出の一つとして自然に受け入れていた。
「へんしんっ!」はもともと、石田さんが学部の卒業制作として取り組んだ作品だ。構想を練り始めたのは、大学2年の冬。障害と向き合いながらダンスや演劇などの表現活動をしている人へインタビューを行い、障害に対する自分の考えを見つめ直したい。そんな思いが、作品作りの原点だった。
自身初の長編映画製作だったこともあり、一筋縄ではいかない部分も多かったという。「へんしんっ!」の基になった自身の作品「しょうがいに向かって~触れることから拓(ひら)く轍(わだち)~」では、インタビューの映像をつなぎ合わせるような形で編集していた。だが、これでは障害を抱える当事者が監督したという意味を見いだせていないのではないか。石田さんはそう疑問に思うようになった。そんな中、作品の方向性の転換点となったのは、立教大の特任教授であり、振付家の砂連尾理(じゃれおおさむ)さんとの出会いだ。砂連尾さんの誘いからダンスの舞台に出演したことが大きな契機となり、石田さん自らが作品に登場して、表現活動に取り組む障害者らと交流する様子を描く作品へと、大きく形を変えたという。
また、指導教授である篠崎誠さんからの提案で、タイトルも変えた。当初入れていた「しょうがい」という言葉が、映画を見る人の視野を狭めてしまうかもしれない。そこで新たに「へんしんっ!」と名付けた。語尾を強め、自分自身を変えたいという意思を示すとともに、ひらがなでの表記により、柔らかさを演出したという。
映画を鑑賞した記者の印象に残ったのは、「監督として一方的に指示する暴君にはなりたくない」という作品中の石田さんの言葉。撮影などを担当するスタッフとの関係性に悩むが、さまざまな出会いや対話を通して、次第にスタッフと心の距離が近づいていく様子が、作品に描かれている。
映画製作を通して障害に対する捉え方はどう変わったのか。石田さんに尋ねてみると、「障害のある体を、面白いと肯定的に捉えられるようになった。人と違う自分の体を、表現活動に生かしていきたいという思いが私自身強まっていて、作品を作り終えた今も、変身途中なのかもしれない」とほほ笑みながら答えてくれた。
現在は自分と同じく映像制作に携わっている障害者に関心があり、大学院で論文の作成のために取材を進めているそうだ。「『へんしんっ!』を製作したことで、映画作りの楽しさや魅力を覚えた」と話す石田さん。「これからは、自分が経験してきた感覚などを、表現方法にとらわれずに作品にしていきたい」という。
<映画「へんしんっ!」メモ>上映時間94分。6月19日より、東京都のポレポレ東中野、シネマ・チュプキ・タバタほか全国で順次公開中。