実名報道のあり方問う 木戸哲・毎日新聞社会部長に聞く

事実伝える使命ある

 毎日新聞東京本社の木戸哲・社会部長はメディアが原則として被害者の実名を報道するのは、「事実を正確に伝えるという最も基本的な使命があるからだ」と話す。特に「人の名前」は、事実の重要な要素として考えられている、と強調する。「被害者の実名を報道し、その人に近しい人から話を聞き、記録する。これは、事件や事故を繰り返さないためにどうすべきかを、世間の人々に考えてもらうためにも必要なことだ」という。また、当事者への取材を通して、事故や事件の背景を明らかにし、検証することも「メディアの重要な役割の一つと言える」と語る。

 しかし、すべての場合において、被害者の実名が報道されるというわけではない。「その判断に明確な基準を設けることは難しく、事件や事故のケースによって判断しているのが現状だ」。最近では、実名での報道に反対する被害者遺族も多く、名前を繰り返し報道しないようにするなど、遺族の気持ちを尊重した伝え方をすることも多い。

 では、どうして匿名での報道を求める声が強まったのか。その背景には、プライバシーへの意識の高まりという時代の流れがある、と指摘する。メディアスクラムやネットによる情報拡散への懸念が大きな影響を与えているとの指摘があるため、各社とも対策を講じているという。

 毎日新聞社は、2001年に出された日本新聞協会による見解を踏まえながら、メディアスクラムの防止に努めてきた。また、ネット上に記事を載せる際には、プライバシーがさらされるリスクを考慮し、載せる情報を少なくすることもある。「過剰な取材をしてきたことは、大いに反省しなければならない。取材や報道による被害を抑えるためにどうすべきか、試行錯誤しているところだ」

 また、実名での報道は、事件や事故の当事者だけでなく、世間の風当たりも強い。座談会の中では、メディア間の報道方針の不ぞろいを指摘する声があがった。「しかし、表現の自由や報道の自由を制限することにつながるおそれがあるため、報道の内容を規則でしばるようなことは原則として難しい」

 実名報道の意義に対する理解が揺らいでいる。今後のメディアのあり方について、木戸部長は「被害者側に寄り添う立場で居続けたい気持ちには変わりはない。その姿勢を理解してもらうため、常にメディアは、実名で報道する意義を説明し、取材や報道のあり方について、今まで以上に考えていく必要がある」と語った。

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