都心に浮かぶ帆船の灯
建ち並ぶ高層ビルやマンションを背景に、1隻の帆船が冬空を静かに照らしている。
東京海洋大越中島キャンパス(東京都江東区)の敷地内にある、国の重要文化財「明治丸」。その誕生は145年前。同キャンパスのシンボルでもあるその船が、夕方から夜にかけて光の輪郭を見せる。同船は全長約75メートル、幅約9メートル。船上にまっすぐ立つ3本のマストを軸として、稜線(りょうせん)のように連なる白い光が幻想的だ。
このイルミネーションが初めて実施されたのは4年前。同船の老朽化に伴い、2015年の春まで大規模な修復工事が行われていた。イルミネーションを実現させたのは、美しくよみがえった明治丸を多くの人に見てもらいたいという思いから。以来、クリスマスシーズンと春の「お江戸深川さくらまつり」の時期に、大学の行事として実施。今年も20日から点灯が始まった。
ライトの取りつけは、同大に併設された「明治丸海事ミュージアム」の職員と実習で帆船に乗った経験のある海洋大生が行う。電球100個が固定された長さ125メートルのコードは、明治丸の船形に合わせて作られた特注品。これを下からつり上げるようにして、船首からマスト、マストから船尾へと装着する。風にあおられてライトが破損しないよう、作業中は緊張が走る。
同大大学院生の寺山正芳さん(海洋科学技術研究科修士2年)は、この作業に携わるのが今回で4回目。ライトの取りつけに関して、「実際に
乗船し、明治丸の構造や当時の技術を学べるめったにない機会」と話す。
「この船は日本で唯一現存している鉄船なんです」。そう強調するのは、同ミュージアム事務室長の小原保さん(64)。明治丸への関心を持ってもらいたいと、特別な姿に願いを込めた。イルミネーションは25日まで。点灯時間は午後4時半~8時半。【東洋大・荻野しずく、写真は津田塾大・畠山恵利佳】
■明治丸
1874(明治7)年に完成し、「灯台巡回船」として活躍した鉄船(現在の船はすべて鋼船)。96(同29)年に商船学校(東京海洋大の前身)へ譲渡されてからは、係留練習船の役目を果たした。1978(昭和53)年、船として初めて国の重要文化財に指定。