すたこら 笑顔は人のためならず

昔から街中で赤ちゃんと目が合った時は、赤ちゃんのお父さん、お母さんにバレないように赤ちゃんを笑わせることを私のミッションとしている。スキルに磨きがかかった最近は、ほんの数分で、笑顔にさせることができるようになった。

 しかし、先日電車に乗っていた時、いつもと違う状況で赤ちゃんと目が合った。赤ちゃんは私をじっと見つめ、それをお母さんがにこにこして見ていたのだ。いつもなら、親に気付かれている場合は何もしない。だがこちらを見つめ続ける赤ちゃんから私が目をそらしたら、悲しい思いをさせてしまうような気がした。

だからいつものように変顔したり、物陰から顔を出したりして笑わせようとした。しかし赤ちゃんの頰は緩まなかった。

 うまくいかない状況に耐えられず、私は「何カ月ですか」と質問した。お母さんは満面の笑みで「7カ月です」と答えてくれた。そのやりとりが聞こえたのか、赤ちゃんがちょこんと生えた2本の下の前歯を見せて、にこっと笑ったのだ。その瞬間、お母さんも周りの人たちも笑顔になり、私はその全ての笑顔に釣られて笑顔になりながら、今までにない達成感とうれしさを感じた。

普段、真顔のまま話すことが多い私だったが、その親子に出会ってからは笑顔で人と話すようになった。今は時々、友人や初対面の人に「笑って話してくれるから、こっちまで笑顔になる」と言われる。赤ちゃんを笑わせるためにやっていたのに、気づいたら自分の生活も豊かになっていた。【日本大・村脇さち】

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