太平洋戦争が終結して来年で80年、日本と韓国の国交が正常化してから60年の節目を迎える。しかし、日韓の関係は年々複雑化しており、嫌韓・反日感情をむき出しにした言葉がSNS(ネット交流サービス)でも飛びかう。日本と韓国の関係を改善するのは本当に難しいのだろうか。日韓で鋭く意見が対立する問題をあえて議題に選び、両国の大学生らで討論する交流会に取材し、Z世代のリアルな意見を聞いてきた。【早稲田大・竹中百花】
日本は1910年、韓国を併合し、45年に日本が降伏するまで35年間、植民地として支配した。そこからさらに20年かけて65年に日韓基本条約を調印し、国交正常化にこぎ着けた。
両国はこの間、文化や政治、経済などあらゆる分野で交流を続けてきた。しかし国交正常化から59年たった今も「竹島(韓国名・独島)問題」「慰安婦問題」「徴用工問題」など、いまだに両国で折り合えない問題は山積みの状態だ。
両国学生が運営
そんな中、「世界を変えるには青年が立ち上がるしかない」というスローガンを掲げて活動するのが「日韓青年パートナーシップ」だ。この団体は2020年、当時延世大3年で日本と韓国の両方にルーツを持つイ・ペクジンさん(25)によって韓国で設立された。運営メンバーは日韓両国の大学生たちで、日韓関係に関する知識の共有や相互理解の場として交流会を開催している。交流会は、日本と韓国で年1~2回ずつ行われており、11回目となる今回は8月9~12日、日本で行われた。
東京都国分寺市の都立多摩図書館で開催された交流会には、運営スタッフも合わせて70人ほどの学生が集まった。日本に留学中の韓国人学生や首都圏に住む日本人学生が主だが、中には韓国や首都圏外から自費で、わざわざ参加する学生もいた。
懸案解決を探る
参加した学生は、政治、歴史、経済、観光、社会文化の5チームに、10~12人ずつ日韓の学生が半々の割合になるように振り分けられる。そして4日間、各チームは日韓で見解の相違が際立つ諸問題(慰安婦、領土、靖国神社参拝など)に対して現状分析を行い、「この問題を解決するにはどうしたらいいのか」をチームのメンバー全員で考え、学びを深めた。
各チームには4日間、通訳スタッフが配置され、日本人学生らのサポートをしていた。そして最終日には、議題に対する分析結果と問題の解決方法を提案するプレゼンテーション、全員参加の討論が行われた。
その討論で最も白熱したのは、政治チームが発表を行った「竹島・独島問題」だった。韓国では歴史教育の一環で、幼い頃から「独島は韓国のものだ」と教え込まれ、「独島は我が領土」という歌が日常的に歌われていると韓国側参加者は口々に言う。一方、日本側参加者は「日本では竹島について深く教えられることはなく、教科書の片隅に書いてあるくらい」と発言し、両国の歴史教育の大きな違いに驚いた様子だった。
韓国側参加者で東京大法科大学院在学中のイム・ヒョンべさん(26)は、歴史教育に加えて報道の影響力の大きさを指摘しつつ「日韓関係を改善するにはお互い中立の立場で話し合うことが必要だ。そのために、我々は情報を正しく読み解く情報リテラシーを、より重要視していかなければならない」と語り、メンバーも納得した様子だった。
政治チームの一員で、3回目の参加となった韓国外国語大4年のチェ・スミンさん(22)は「参加前には竹島・独島問題での対立は日本の責任だと無意識に思い込んでいた。でも日本と韓国でそれぞれ歴史的根拠や意見に違いがあって、どちらの国に責任があると決めつけられることではないと気づくことができた」と語った。
真剣な話し合い
歴史チームの一員として今回初めて参加した独協大3年、伊東小陽さん(21)は「同じチームの韓国人学生の方が私たち日本人学生より何倍も問題に対する知識が豊富で、恥ずかしく思った」と語った。またそうした意識の差が生まれる背景について「テストのためだけの勉強で終わってしまっているところにあるのかもしれない」と、日本の歴史教育が抱える課題についても言及した。
交流会を終えて、実行委員長の法政大3年、ムン・ジョンヒョンさん(24)と、副委員長の学習院大4年、大山朱莉さん(22)はそれぞれ「この場で終わりじゃない関係を築いてほしい」「どちらが正しいかを決めるのではなくて、どんなふうにしたらもっと良くなるのかという中立的な視点を持って帰ってくれたらうれしい」と語った。
両国の学生が本気で議論し合う4日間。時には真剣な話し合いあり、時には笑いありで終始なごやかな雰囲気だった。また、各メンバーが発言をし終えた後には拍手をし合うなど、互いへのリスペクトを決して忘れない様子が印象的だった。こうした議論や交流の様子をみて、このような強い意志と目的をもった若者たちがいずれ歴史を変える原動力になるかもしれないと思えた。(「戦争を考える」は今回で終了です)