すたこら 捨てられぬパーカー

すた・こら

 捨てようか、捨てまいか。洋服を整理するたび思いが乱れて手が止まる。悩みの種はピンクのくたびれたパーカ。たびたび着たため、生地はよれて毛玉だらけ。持て余し状態だが、それでも捨てられないのは思い出が詰まっているからだ。

 パーカとの出合いは高校生の頃。ダンス部に所属していた当時、衣装として購入した。可愛らしい色合いやポップコーンのイラストが気に入り、公演で着た後も、部活の練習着として愛用した。この服に身を包むと、練習に明け暮れた当時の思い出が一気によみがえってくる。そんな服を捨てるのは、思い出も捨てるようでやはり難しい。

 しかし目の前にあるのは、すでに満杯のタンス。引き出しを開ければ、買ったばかりの洋服たちが窮屈そうに顔をのぞかせる。「十分着たんじゃない?」。母に背中を押してもらい、ゴミ箱に入れようとしたその時、「それ可愛いよなあ。部屋着としてまだ着られるんちゃう?」。目を向けると、父が立っていた。

 結局、パーカは捨てられず。何とか見つけたスペースに無理やり押し込み、今もタンスの中で眠っている。思い出に縛られて物を取っておくことを、今度こそやめようと思っていたのに。引き留めた父にすら腹が立ってくる。私がパーカとの別れを決心するのは、まだ早かったのかもしれない。それどころか、一度手放すと決めたのに、戻したせいで余計捨てづらくなってしまった。だから、次に洋服を整理する時まで、もう少しだけそばにいてもらおう。【立教大・明石理英子】

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