読見しました 母にエールを

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毎日新聞2020年12月8日 東京夕刊

 私の母がパートタイムの仕事を始めてから10カ月目になろうとしている。勤めを始めたきっかけは、母が「家族の中で自分だけが好きなことをしていない」という思いを抱いたことだった。そして昔に取得した資格を生かして、学習障害や自閉症の子どもを預かる学童保育の先生になった。

 母が仕事情報誌を切り抜き、それを眺めていたときは「やりたいならやればいいじゃん」くらいの気持ちだった。しかし、いざ仕事に出かけてしまうと私は今までに味わったことのない違和感にさいなまれた。というのも、生まれてからずっと、私が家にいる時は母もいるのが当たり前だったから。

 だが、そんな不慣れな感覚にも今ではすっかり慣れ、家に私一人だけの時は、料理や片付けをして過ごす。そして新たな楽しみもできた。それは母が話す「今日の出来事」を聞くことだ。イマドキの中高生の話にはついていけないが、その存在はとにかく新鮮らしい。目を輝かせ、生き生きと声を弾ませながら私に報告する。「借りたものを返さないことをカリパクっていうんだって!」「一言も話してくれなかった子がニヤッと笑ったんだよ」

 私に手を焼かなくて済むようになった代わりに新たな楽しみを見つけた母。与えられた仕事をこなすだけにとどまらず、頑張りすぎである。これからはそんな母を私が応援したい。【千葉大・谷口明香里、イラストも】

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