1日は「点字の日」。今日では多くの大学において視聴覚や身体に障害のある学生の修学支援が行われている。今年度から初めて視覚に障害を持つ学生が入学した、跡見学園女子大を取材した。
視覚障害持ち今年度入学、袴田久実子さん(20)
一人の学生に会うため、記者は同大新座キャンパス(埼玉県新座市)を訪れた。文学部人文学科の1年生、袴田久実子さん(20)だ。彼女の手には白杖(はくじょう)が握られていた。
袴田さんは、年齢と共に視力が低下する病気だった。中学までは普通校、高校は特別支援学校に通う。同大への入学が決まり、進学に備え手術を受けたが、残念ながら、視力はさらに低下。光は届いているため、物体の存在の認識や、拡大された文字を読むことはできる、強度弱視の状態だ。
同大ではこれまで視覚に障害を持つ学生が入学した例はなく、彼女の入学が決まった時点では支援体制も整っていない状態だった。このため、大学側と話し合い、1年間の休学とリハビリを経て、今春入学した(学籍上は2年生)。この間に大学側も点字ブロックの取り付けや図書館への拡大鏡の導入、教材の工夫などの準備を進めた。
入学前には、教職員や他の学生から敬遠されるのではないか、と心配していたという袴田さん。だが入学してみると、周りの学生や教職員たちが自然な形で支援してくれることに非常に驚いたそうだ。前期には教職の必修科目として体育の授業もあった。その際も他の学生が、どうすれば袴田さんも参加できるかを考え、提案してくれたという。
障害を持つ学生の受け入れを決めた、笠原清志学長(71)は「マニュアルをそのまま適用するだけでは不十分。その時々で本人と話し合い、一つ一つ改善が必要」と語る。加えて、「入学前にお互いにできること、できないことを確認することが大切」だという。
さらに今年度から専門性を持った職員を迎え学生支援室が開設された。学内の各部署との連携を進めるとともに、学生によるボランティアの募集も始まった。主な活動は、駅から大学までや授業間の移動サポートと、講義資料の対面朗読など学習面のサポートだ。
サポートスタッフに参加している心理学部2年の佐久間莉音さんは、袴田さんとの交流を通して「駅などで見かけるサポートの光景が、自分の中で『ほんの少し特別な光景』から『日常の光景』になった」という。
現在登録メンバーは約30人。メンバーのほとんどが「友達として一緒に過ごす延長で手伝いをしている」感覚だそう。文学部2年の三野麻琴さんは「(本人へのサポートだけでなく)障害への理解を促す活動を企画し行動したい」と話す。笠原学長は「制度と個人の意識は車の両輪のようなもの。どちらかが欠けては前に進めない」と、「心のバリアフリー」の重要性を主張する。
「頑張っていると必ず助けてくれる人がいる。それを当然と思わず謙虚にいるべきだが、卑屈になることはない。必要な時は自分からサポートを求めることも大切」と袴田さん。
大学では二つの部活動・サークルに所属している。一つは演劇部。週3回活動があり、先輩や同級生からのサポートを受けつつ皆と同じように参加しているそう。もう一つの団体では、小説を執筆しているという。「今後も自分からいろいろなことに挑戦してみたい」。留学に向け、英語の勉強にも本腰を入れたそうだ。
自ら道を切り開いていく袴田さん。大学の取り組みや学生たちの気づきによって、障害の有無に関係なく、キャンパス生活を楽しめる機会は広がっていくことだろう。【津田塾大・畠山恵利佳】