読見しました。: おしゃべり好きだけど……
昔からおしゃべりが大好きだ。家でも学校でも、話してばかりだった。あまりにも口が達者な私を見て、父が「口から生まれてきたんじゃないか」と言ったことがあったくらい。
逆に、沈黙は苦手だった。口数が少ない相手には、「楽しくないんじゃないか」ともんもんとしてしまう。だからいつも必死で会話をつなげてきた。だが最近、そんな考えが変わってきている。
きっかけは友人と5人で行った温泉旅行。県境をいくつもまたいで行く山奥の宿までの道のりは、電車で4時間。その間私たちは言葉少なだった。読書をしたり、仮眠をしたり、車窓からの写真を撮ったり。それぞれが思い思いの時間を過ごした。
だが不思議と「しゃべらなきゃ」といういつもの切迫感はない。まるで5人でいる楽しさと、1人でいる気楽さが合わさったような時間。沈黙は重いものではなく、味わえるような深みがあるものだと知った。
私は今まで、言葉に頼りすぎていたのかもしれない。言わないと分からないことはたくさんあるし、やっぱりおしゃべりは大好きだ。だが言葉は手段に過ぎない。そう思うようになった。好きだけど、執着しない。言葉との距離感は、繊細で面白い。【筑波大・西美乃里、イラストは立教大・明石理英子】