学内限定SNS「ぎふとも」 気軽な交流のツールに

なにコレ!?

 新型コロナウイルスの感染急拡大で大学生活が一変してから約2年。感染拡大後に入学した今の1、2年生からは、学内での友達作りに苦労したという声をよく聞く。そんな苦労の当事者である岐阜大学の学生が、同大の学生だけが利用できるネット交流サービス(SNS)「ぎふとも」を考案し、今月6日、大学公認で提供が始まった。発案した地域科学部1年の柴田菜月さん(19)と、協力者である同大高等研究院の上原雅行准教授(44)に開設した理由や目的を聞いた。【国学院大・原諒馬】

大学生アイデアを公認

 「ぎふとも」のインターネットサイトは、岐阜大の学生がそれぞれ保持する同大のメールアドレスからのみ登録できる。学年や学部などを検索して仲間を見つけたり、写真や動画・文章を発信し合ったりすることで、学内交流の活発化を狙う。併設された掲示板では、イベントへの参加者募集や悩み相談、使用済みの教科書といった不用品の引き取り手を探すページなど、用途別に分かれた10項目のトピックを基に、学生同士が自由に対話できる仕組みになっている。

 このサービスを考案したきっかけは、昨春入学した柴田さん自身が友人作りに苦労したことだ。「入学前は多種多様な人が集まる大学生活を想像してワクワクしていたが、実際は一部の授業を除き、キャンパス内で交流できる機会がなかった」という。この経験から、学生同士が気軽に交流できる機会を作れないかと模索するようになった。

 そんな時、前期授業で社会的課題の解決をビジネスの視点から考える「アントレプレナーシップ(起業家精神)入門」を受講し、担当教員の上原准教授らに出会った。7月下旬の最終授業で行われた発表の場では、入学直後の経験を絡め、学内限定のSNSを作りたいと提案。すると同学年の受講生を中心に、賛同の声が相次いだ。その反応を目の当たりにした上原准教授は「コロナ禍の中、みんな友達作りに苦労していたんだな」と心を動かされ、サイトを一緒に作ることになったという。

トラブル生まぬよう

 大学で友人を作るには、ツイッターやフェイスブックなど既存のSNSでも、検索すれば“候補”は探し出せる。それでも学内限定にこだわった理由として2人は、誰もが利用できる半面、誰に見られているか分からない既存のSNSならではの特性を指摘する。

 柴田さんによると、コロナ下でも学内サークルの新入生歓迎会はオンラインで実施されていたが、募集の多くは各団体の公式SNSアカウントで行われていた。しかし、「申し込む際にメッセージを送ると、これまで使ってきた自分のアカウントが相手に知られてしまう」。あくまで知り合いとやり取りするために、既存のSNSを使っている柴田さん。それに対し、団体のアカウントを管理する学生はどのような人物か分からない。見ず知らずの人と接触することで、不快なメッセージを送られたり、親しい友人向けに投稿してきた写真などの情報から顔や経歴、交友関係が悪意を持つ人に知られたりする恐れもある。そんなトラブルに巻き込まれそうで、利用者を無制限とすることには抵抗があった。

 一方、上原准教授はフェイスブックの例を引き合いに出し、利用者を絞ることで気軽に使えるサービスになると期待する。「フェイスブックは当初、米ハーバード大の学生限定の交流サイトだった。しかし対象を広く大衆向けに変更したため、それまでの利用者が別のSNSに分散した。また利便性を追求して多くの機能を追加したことで、逆に使いこなせない人も出るようになった。利用者が気楽に使えるようにするには、原点に立ち返って大学内にシンプルなサイトを構築すべきなのではないか」と考えたという。

 学内生同士で気軽につながれるコミュニティーの形成を目指す「ぎふとも」。サイトの構築は、ネットで悩み相談を行う外部の団体「ココトモ」が請け負った。構築に要する費用は大学が負担したが、限られた予算で多くの企業に断られた中、上原准教授が偶然ネットで見つけた同団体だけが興味を持ってくれて、実現させることができた。

課題に耳傾けて

 サイト設計に当たって柴田さんは、同大の学生が直面している課題に耳を傾け、その都度改良したプランをサイトに組み込んだ。同大の半数以上を占める理系の学生たちから「大学院に進むか悩んでいるのだが、院生と知り合う方法が分からない」と相談を受け、対象者を修士・博士課程まで拡大した。

 21日現在で、利用登録した学生は80人。現在は口コミで広がっている段階だが、今後は学内で宣伝のチラシを配布する予定だ。「岐阜大は一つのキャンパスに全ての学部が集まっている。学部の垣根を越えた交流が活発になっていくといい」と話す柴田さん。入学式では新入生にパンフレットを配布したいという。

 岐阜大は2020年4月、改正国立大学法人法による「1法人複数大学」の初事例として、名古屋大学と法人統合した。それ以来、大学職員の意識は他大学や企業など、学外に向きがちだったという。「柴田さんの発表を聞いて、大学側も、もっと学生の直面する問題に目を向けなければと気づかされた」と上原准教授。学生・教職員ともに影響を与えた「ぎふとも」が、この大学の未来を変えるかもしれない。

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