慶応大の夏大学祭、花火復活 オンラインとの「ハイブリッド」で

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7月3日夜、神奈川県藤沢市の慶応大湘南藤沢キャンパスで2年ぶりに行われた七夕祭の打ち上げ花火=同祭実行委員会提供


 キャンパスの夜空に上がる色とりどりの花火。同時に、インターネットの中の仮想キャンパス上空にも無数の花火が咲き誇った。神奈川県藤沢市の慶応大湘南藤沢キャンパス(SFC)で7月3日に開催された「第32回七夕祭」。新型コロナウイルスの影響で、各大学の大学祭が中止または完全オンライン開催を余儀なくされる中、今回はプログラムの一部を現地開催とし、オンラインと併用する「ハイブリッド形式」で開催された。「新しい祭りのかたち」を模索した様子を取材した。【日本大・畑山亘】

 七夕祭は、1990年のSFC開設時から続く夏の大学祭。地域住民の働き掛けで誕生した催しで、コロナ前は学生、一般客合わせて1日のみの開催で約1万人が来場する人気イベントだった。コロナの影響で昨年は対面での開催を見送ったが、今年は一歩前進。キャンパスで一部のイベントを実施することにこだわり、その模様を生配信する手法と、昨年に続きネット上にSFCの仮想キャンパスを設け、パソコンやスマホで参加する手法を組み合わせて開催した。

 「今年はオンラインでも、リアルタイムで楽しめる企画をつくりたかった」。そう語るのは、今年の七夕祭実行委員会代表を務める環境情報学部3年の七条祐香さん(20)。昨年の完全オンライン開催で得た知識や技術、培ったノウハウをもとに、ハイブリッド形式の企画を検討した。

キャンパスでの花火とともに7月3日夜、インターネット上の仮想キャンパス上で打ち上げられた七夕祭の「バーチャル花火」
キャンパスでの花火とともに7月3日夜、インターネット上の仮想キャンパス上で打ち上げられた七夕祭の「バーチャル花火」

 その目玉は「花火企画」。七夕祭の終盤に会場内で音楽とともに打ち上げる花火は恒例の催しで、地域住民からも親しまれてきた。昨年は実際の打ち上げは見送り、代わりに、ネット上の仮想キャンパスで「バーチャル花火」を打ち上げた。実施にあたっては、花火業者が実際の花火を打ち上げる際の確認に用いるシミュレーターを応用して、学生たちがシステムを構築したという。

 実行委は今年、キャンパスでの花火の打ち上げとその生配信、そしてバーチャル花火との同時開催に挑むことを決めた。「花火業者との連携など準備作業の量は前年の2倍となった。関係者間で何度もオンラインで打ち合わせを行った」。企画を担当した同学部2年の小西海晟さん(20)が語るように準備は大変だったそうだが、本番では「キャンパスで打ち上げた花火の生配信を見た友人から『本物の花火って良いな』という感想をもらえた」と、手応えを感じた様子だった。

 花火企画の他にも、昨年は開催できなかった「ステージ企画」を開催。ステージを使ったサークルによる活動発表の場であり、参加団体はキャンパスに設けたステージに実際に立ってパフォーマンスを事前収録。視聴者は配信で視聴する形で実施された。

 ただ、猛威を振るうコロナの影響はやはり避けて通れなかった。準備を始めた昨秋ごろは、後輩たちへの引き継ぎという観点から、学生客、一般客の来場を想定していた。しかし一向に収まらないコロナの感染状況や、大学の感染防止の意向を受けて、今年4月ごろには客の来場を見送ることを決めた。

 また、準備は原則すべてオンラインで進行。東京都での緊急事態宣言が一時解除された6月、大学のサークル活動制限が一部緩和された後に対面で詰めの準備を行った。また、企画参加者などキャンパスへの同時入構者の100人程度への制限や、開催2週間前からの参加者の検温など、徹底した感染対策を取った上で開催にこぎつけた。

 しかし、七夕祭当日はあいにくの雨。ゲーム参加者なら入構できる、鬼ごっこゲーム「檻(おり)姫の星合い」を、花火企画と並ぶ目玉企画として用意していたが、中止となった。企画した総合政策学部2年の直井智佳さん(19)は、「せっかくキャンパスの屋外でも行う企画だったのに残念だった」と唇をかんでいた。

 悪天候にも災いされた今年の七夕祭。しかし実行委代表の七条さんは、「昨年はできなかった、花火の打ち上げやそれに伴う近隣住民へのチラシ配布を通して、わずかでも、七夕祭が大切にしてきた地域住民とのつながりをつくることができたのではないか」と話す。その上で、「来年こそはお客さんを入れ、地域との関わりを増やしていきたい。七夕祭は数ある大学祭でも早い時期に行われる。学園祭でこんなことができるんだよ、と提案するような新たな試みを今後も続けていきたい」と意気込みを語った。

 コロナ禍という厳しい条件の中でも、学生たちは知恵を絞り、よりお客さんに楽しんでもらえるような創意工夫を繰り広げていた。夏休みが明け、秋になれば本格的な大学祭シーズンがやってくる。今年はさらにどのようなイベントが生まれるだろうか。

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