読見しました。:おじさんの一言

 駅構内のパン屋でアルバイトを始めて1カ月が過ぎ、仕事をすらすらとこなせるようになってきたころの出来事。ある日のレジ打ちで、タイムセール中なのに割引を忘れてしまった。

 気がついてあわてて差額処理をしている間、「どうしよう、お客様を待たせている」。申し訳なさと焦りでいっぱいだった。怒っているだろうと思い、恐る恐る顔を上げたが、おじさんはそうではなかった。むしろ笑顔で「がんばってね」と言い残し、返金をもらって店を後にした。

 たったの「6文字」だったが、私にとっては心が温まる特別な言葉に感じた。思い返せば最初の1カ月は社員やお客様から注意されてばっかりだったなあ。久しぶりのエールに私の心はうれしさと更なるやる気でソワソワだった。

 たいていの人は、初心者の学生アルバイトが表に出るのを良くは思わないだろう。だが実際に自分が働き始めて分かることがあった。誰だって初めてやることを最初から完璧になんてできない。

 おじさんにもう一度会えるかは分からない。けれども、大事なことに気づかせてくれたことは絶対に忘れない。次に会うときは一人前になった私を見てほしい。【千葉大・谷口明香里、イラストも】

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