2019/07/23 なにコレ!?

舌をだます電気味覚 減塩の救世主?
注目の手袋 明大研究室開発

 「電気味覚」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。舌へ電気を流すことで味覚に変化が表れるという。一体どういうことなのか。その謎に迫るべく、「食べ物の味を変えられる手袋」を開発した研究室を訪ねた。【津田塾大・畠山恵利佳】


 先月12日に東京大学で開催された、日本バーチャルリアリティ学会第1回神経刺激インターフェース研究会。そこで「あらゆる金属製食器を電気味覚提示に用いる手袋型デバイスの試作」と題して発表された手袋が注目を集めた。

 開発したのは、明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明教授と、同学科3年の鍜治慶亘(よしのぶ)さん。この手袋型の小さな装置を使用すると、あらゆる食べ物に電気味覚を付与できるという。

 電気味覚とは、舌などの味覚器に電気を流すことで生じる、味の感じ方の変化を指す。200年ほど前に発見され、さまざまな研究が行われてきたが、いまだ解明されていないことも多い分野だ。

 これまでは、ナイフやフォークなどの食器の持ち手部分に電源を取り付けた装置が主流だった。手袋型にすることで、電源が取り付けられていない一般の金属製食器を用いて電気味覚を味わえるように。すしのように手づかみで食べる物にまで応用範囲が広がった。

 装置は市販のゴム手袋に箱型の電源が装着された電池式。電源部には市販の9ボルト電池が入っており、指先にはタッチパネル対応の手袋に使われているような導電性の布を用いている。

電気味覚の回路図(宮下芳明教授提供)

 人さし指部分に取り付けられた電極から金属製のフォークやはしなどの食器や食べ物を介して、舌へと電気が流れる。そして体内を通って、小指側の電極から電源部へと伝わる回路が作られる仕組みだ。また電源部のスイッチで、舌につける側の電極を切り替えると、両極では異なる味が感じられる。

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 記者も体験してみた。今回は金属製の串に刺した塩味の焼き鳥を用いた。

 まずは「陽極」。あらゆる食べ物が金属の味になるという。電気が流れると聞き、手袋をして恐る恐る、焼き鳥を口にしたが、刺激は全く感じない。普通の塩味の焼き鳥に鉄分の苦みが合わさったような味わいだ。「おいしいか?」と問われたら、個人的には普通の焼き鳥が好きだと答える。人体への影響は無いそうだ。

 次に「陰極」に切り替えると面白い現象が起こった。人さし指が串に触れている時は塩味が薄まり、指を離すと塩味が濃くなるのだ。その理由は、イオン化したNaCl(塩化ナトリウム)が、Na+(ナトリウムイオン)とCl-(塩化物イオン)に分かれ、塩味のもととなるNa+が陰極に引き寄せられるからだという。この原理により、回路がつながっている間は塩味を感じず、回路が切れると元の味に戻る。

 味覚を一度抑制することで、はじめより濃く感じるよう、舌をだますのだ。イオン化を利用しているため、しょっぱいものや酸っぱいもの、またスイカなど塩分を加えると甘みが増して感じられる食べ物との相性が良いそうだ。人さし指をつけたり離したりすると、じわじわと焼き鳥の塩味が変化していく。これはおいしい。

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 開発期間は、鍜治さんが今年4月に研究室へ正式に配属されてからの、わずか2カ月だそう。その間に鍜治さんは、電気味覚に関する知識を習得し、電子工作に試行実験、論文執筆までこなしたという。「味覚は不思議だな、と思うところから始まった。原理を覚えるのも楽しく、あまり苦労は感じなかった」と鍜治さん。

 また、教科書となる基礎文献もまだ存在しない研究分野のため、原理を学ぶ際は、最新の論文だけが頼みの綱だった。問題に直面した際は、鍜治さんの好奇心や能力を尊重しながら、適切なアドバイスが宮下教授から与えられる。そんな理想的な師弟関係があったからこそ、開発に成功したと言えるだろう。

 課題としては装置の小型・軽量化や、味の変化のコントロールがあげられる。今回は直流回路が用いられているが、コンピューターと連動させ、交流回路を用い出力する波形を操作することで、味を持続させたり、強弱に変化をもたらしたりすることができるようになるという。改善のため今後もこの研究を続けていくそうだ。

 実用化されれば塩分を抑えながら、おいしい食事をとることができる。食事制限が必要な人たちの、救いの手となることだろう。血圧を気にして減塩に努めているキャンパる編集長にも、記者はぜひ勧めたい。

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