就職活動中の学生に企業が他社の内定を辞退するよう強要したり、内定承諾書の提出を迫ったりする行為はオワハラ(就活終われハラスメント)として知られる。政府や経済界が撲滅を呼びかけているが、依然としてオワハラに苦しむ就活生は後を絶たない。なぜ企業はオワハラに走るのか、就活生はどう身を守ればいいのか取材した。【上智大・清水春喜】
意図の確認、外部相談重要
大手IT企業からオワハラを受けたという東京都内の女子学生の話を聞くことができた。今春卒業予定のこの学生は、選考が進む中で、人事担当者から「内定が出たら、うちに来るよね。他社は辞退するよね」と何度も念を押されたという。こうした発言について、この学生は「オワハラにあたる言動だったと思う」と振り返る。内定後1日も置かずに内定承諾書を提出した学生だが、結局、この企業の内定を辞退し、他社への就職を決めた。
オワハラについては2023年4月、政府が「就職したいという学生の弱みに付け込んだ行為」と初めて位置づけた上で、当時の小倉将信共生社会担当相が経団連と日本商工会議所に対し、防止の徹底を求めたいきさつがある。
しかしオワハラはなくなっていない。大学4年生、大学院2年生計約5000人を対象に内閣府が就活状況などについて調査し、24年12月に発表した資料によると、24年度に「オワハラの経験がある」と答えた人は9・4%に上る。22年度は10・9%、23年度は9・4%で、ほぼ横ばいの傾向がみられる。
職場におけるあらゆるハラスメントの防止と解決を目指す日本ハラスメント協会の村嵜(むらさき)要代表理事は、オワハラは憲法で保障されている職業選択の自由を侵害する行為だと指摘する。言動の程度によっては「刑法上の脅迫・強要に該当する可能性もある」と話す。またオワハラは法的な見地からの問題以前に、「学生の意思決定をゆがめる点で問題だ」と語る。
内定後、内定承諾書など契約的な形を取ると、学生は「辞退してよいのか」と不安になりやすい。実際には内定承諾書は雇用契約書とは異なり、法的な拘束力は弱い。「ただ学生は、そう分かっていても『迷惑をかけたくない』という感情にのまれて進路を妥協させられてしまう。そのことこそ、看過してはいけない」と村嵜さんは話す。
は、なぜオワハラはなくならないのか。村嵜さんは「数年かけて採用計画を練り、広告費や面接に投入する人員などのコストが多くかかる大企業ほど、計画通りに内定承諾を積み上げたい思いが強い」と説明する。新卒採用で売り手市場が長続きし、企業間の人材獲得競争は激化している。内定辞退が出れば追加募集の費用も膨らみ、採用担当者個人に精神的負担が集中しやすい。その圧力が、学生へ転嫁される構図があると村嵜さんはみている。
オワハラは、脅し文句のような強い言葉で学生に圧力をかける事例ばかりではない。冒頭に紹介した女子学生のケースでも、人事担当者の物言いはきついものではなかった。ただこの学生は選考途中に自己PRの方法や面接の指導など就活支援を手厚く受けていた。その分「辞退を切り出すことに、申し訳なさを感じていた」という。内定通知後、すぐに内定承諾書を提出した背景には、そんな心理的なストレスもあった。
企業側もこの「断りにくさ」を認識し始めている。早期選考を積極化するIT大手A社は、採用担当者が長期にわたって学生と接点を持ち、互いを理解し合う関係の構築を前提とする「通年型」の採用選考を志向している。人事担当者は取材に対して「採用の早期化に伴って、選考から内定承諾、そして実際に入社するまでの期間が長期化している。その分、我々と関わる時間も長くなるため、辞退することを申し訳なく感じさせてしまう難しさはある」と認める。
その上で、学生を心理的に追い込まないよう「できるだけ対等な立場で向き合う姿勢を大切にしている」と語る。辞退が出ても、学生の意思決定を尊重し、応援したいという。実際に、このA社の内定を辞退したという学生に取材すると、辞退連絡後の同社からのしつこい引き留めや就活妨害行為は無かったという。
学生側はどのように就活に臨むべきか。村嵜さんは「内定承諾書の提出期限は一律なのか」や、他社辞退を求められた場合は「辞退を求める意図は何か」を確認するなど、まずコミュニケーションを試みることを勧める。承諾書で納得できない文言や期限が示された場合は、政府からの通達など指針を踏まえた上できっぱりと異議を伝える選択肢もある。迷った時は、大学のキャリアセンターや外部相談窓口に早めに相談し、孤立しないことも重要だ。
就活は、企業が学生を選ぶ場であると同時に、学生が企業を見極める場でもある。企業は「辞退は起こり得る」という前提で採用を設計し、学生は「断ってよい」という前提で自分の意思を守る。両者がその前提を共有できた時、就活はようやく健全な意思決定の場に近づくと感じた。

