すたこら 別れまでの3カ月

すた・こら

 共に暮らす母方の祖母が、余命半年と宣告されたのは10年前。長年患った卵巣がんが悪化して緊急搬送された日、医者からは「もう治療のすべがありません」と言われた。祖母も察していたように思う。「うちに帰りたい」。子供のようにわんわんと泣く親の姿を見て、母は、最期まで家で普段通り暮らそうと決めた。

 5月、居間にベッドを置き在宅介護が始まった。ヘルパーさんをまねて、私もおむつの交換や体を拭く手伝いをした。「ちーちゃん徐々に上手になってるね」と冗談交じりに笑う祖母。余命半年なんてうそではないかと何度も思った。

 7月、穏やかな日々は続かず脳梗塞(こうそく)を発症。マヒが残り会話も食事もできなくなってしまった。接し方が分からず戸惑う私に、訪問看護師さんが「エンゼルタイム」という言葉を教えてくれた。そう遠くはない別れまでの時間のこと。本来は愛猫との別れに使われる言葉だが、私たち家族が、祖母との別れを受け入れるための時間と素直に受け止めた。

 翌日から、帰宅してランドセルを下ろすとすぐに、やせ細った体をさすりながらその日の出来事をたくさん話した。反応はないが、遠くを見つめる目を見るとうれしそうに話を聞いている気がする。8月9日の晩、家族に囲まれて静かに息を引き取った。当時11歳の私には、寂しさよりも「ばあば、よく頑張ったね」という気持ちの方が強かった。思い浮かぶのは私を見守るその穏やかな顔。かけがえのない3カ月の時間をくれて、ありがとう。【日本女子大・久保田千弘】

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