第100回東京箱根間往復大学駅伝の予選会が10月14日に開催された。全国の大学に門戸が開かれた同予選会には、関東地区以外の11校を含む過去最多の57校が参加した。「キャンパる」編集部は、関東勢の牙城に挑んだ大阪経済大と、30年ぶりの本大会出場を目指した慶応義塾大に注目。両校の主将に、今後の大会のあり方も含めて箱根路への思いを語ってもらった。
挑戦する精神、継承を 慶応・田島公太郎主将(3年)
「箱根駅伝の一番の魅力は、どんなに険しい山間部でも常に沿道からの声援が途切れないこと」。田島選手が語る箱根駅伝本大会の印象だ。1年生の時、選抜チームである関東学生連合の一員として本大会に出場した経験がある。「陸上競技に打ち込む者にとって、箱根駅伝は夢の舞台」と目を輝かせながら話した。
慶大競走部は創部100周年を迎えた2017年、本大会出場を実現すべく「箱根駅伝プロジェクト」を開始。4年連続で箱根に出場した日本体育大OBの保科光作コーチが就任し選手強化に取り組み、メディカルチェック体制も充実させた。クラウドファンディングも昨年、今年と2年連続で実施。今年は1000万円超の寄付があり、強化合宿の費用などに充てられた。
だが1994年を最後に、本大会への出場はかなわぬままになっている。慶大同様、本大会出場を悲願に戦力強化に取り組む関東のライバル校は数多い。ただ大学の理念である「文武両道」の追求を掲げる慶大は、他校のように有望選手獲得の武器となるスポーツ推薦制度を用いたり、練習漬けを常時選手に強いるスケジュールを組んだりしていない。「実験やリポート作成に追われ、学業で手いっぱいの部員も少なくない。だがどんなに忙しくても決して練習を休むことはない」。それが慶大流だ。
今大会で実現した箱根駅伝の全国化については「熊本県出身の自分としては、さまざまな大学が一堂に集うため、率直に面白そうだと思った」と話す一方、「箱根駅伝は関東固有の大会なので、続ける必要はない」と語った。
「高校時代に輝かしい実績を残すことのなかった選手が、本大会に出場したらどんなに素晴らしいことか。常にチャレンジする精神を忘れずにいたい」。そう話して臨んだ予選会。結果は22位で、本大会出場には手が届かなかった。レース結果について「今年こそ出場できると思っていたので非常に悔しい、考えが甘かった」と振り返った。だが全力でやりきったという達成感もあったという。
「これまでは実力を発揮できずに終わる選手も多かったが、今年は全員けがすることもなく、100%出し切れた」。慶大の挑戦はこれからも続く。「後輩には挑戦する精神を忘れないでほしい」と語った。【成城大・新井江梨】
<競走部>初回から参加、優勝1回
1917年創部で部員数は146人(うち長距離ブロック29人)。箱根駅伝本大会には過去30回出場し、優勝1回(1932年)。第1回大会に出場した4校(オリジナル4)のうちの1校という輝かしい歴史を持つ。だが94年を最後に本大会に進めず、2017年に始めた「箱根駅伝プロジェクト」でチーム力の底上げを図ってきた。しかし競合校は関東地区に数多く、20年と21年の予選会で19位の成績を収めたものの、本大会出場には手が届かなかった。一方で、前回まで4年連続でメンバーが関東学生連合の一員として本大会出場を果たしている。学年の垣根を越え、互いに切磋琢磨(せっさたくま)して練習に励む。【成城大・新井江梨】
関東との差縮めたい 大経・杉本平汰主将(4年)
「チームメートへの言葉がけはもちろん大切だが、主将として走りで(背中を)見せていきたい」。そんな心意気で引っ張るチームは、全日本大学駅伝の関西地区選考会で2年連続トップ通過を決めるなど、関西学生陸上界長距離部門での地位を確固たるものにしている。
関西地区の大学が箱根駅伝に出場した前例はあるが、同校としては初の挑戦だ。昨年6月末、100回大会の参加資格の全国化が発表され、箱根路を走れる可能性があることを知った時は、「純粋に一度走ってみたいと思った」という。
しかし、ハーフマラソンの距離で競う箱根駅伝の予選会に備えて周到に練習を積んでいる関東の大学と戦うには、準備期間が1年余りでは厳しい。そのため青木基泰監督やチームメートとも相談し、予選会にエントリーはするものの、開催時期が近い他の駅伝へ影響が出にくい形を取ることに決めた。予選会出場選手は主力メンバーを外し、「経験を積んで今後の競技につなげてほしい」と、下級生中心で編成した。
結果は43位。「帰ってきてからも、皆が口をそろえて規模が違ったと話している。他の駅伝では味わえない雰囲気だったようで、挑戦する価値はあったと思う」と振り返った。
また挑戦できる機会があれば、後輩には本大会にも出場してもらいたいとも話す。「全国化すること自体は賛成だが、今回で終わってしまうのであれば関東との差は縮まらない。今後も全国化されるとしたら、関西の大学はもっと練習の強度を上げていかなくてはいけない」と語った。
杉本選手自身は一昨年、昨年とけがに悩まされることが多かった。「今シーズン、けががなかったのは良かったが、実際に走ると難しい部分もあった」という。それでも「乗り越えた先で結果を出すと楽しいし、やっぱり続けたいと思わされる。それがモチベーションにもつながっている」。
大学卒業後も実業団へ進み、競技を続けたいと考えているという杉本選手。今は18日開催の丹後大学駅伝での優勝を目標にし、自身は区間賞も狙っている。「優勝できる走力はあると思う。時期が近い大会もあるが、今年は耐えられるように練習してきたので100%の力で臨めるはず」。杉本選手は力強く言い切ると、笑顔を見せた。【早稲田大・山本ひかり】
<陸上競技部>全日本大学駅伝25回出場
1934年創部で、現在部員は56人(うち長距離選手は29人)。長距離部門の実力は関西トップクラスで、2022~23年、2年連続予選トップ通過で出雲駅伝、全日本大学駅伝への出場を決めた。全日本大学駅伝は3年連続25回目の出場。5日に行われた今年の全日本大学駅伝の成績は関東以外の大学ではトップの16位だった。同大会初出場は79年で、最高成績は88年の10位。今年10月には英国風パブ事業を展開する株式会社ハブとスポンサー契約の締結を発表し、新ユニホームで出場している。関西勢トップの成績維持はもちろん、関東勢とも戦えるチームを作るべく、日々奮闘中。【早稲田大・山本ひかり】
◆レース総括 大東文化大、2年連続首位
今年の箱根駅伝は100回目という大台到達を記念して、例年20校だった本大会出場枠が23校に拡大された。予選会では、昨年の本大会成績上位10校のシード校を除く13の枠を争うことになった。
予選会(21.0975キロ)は各校上位10人の合計タイムで争われ、大東文化大が2年連続で首位通過した。4位の日本体育大は76年連続出場を果たし、5位の日本大は4大会ぶりの出場を決めた。
出場枠拡大の恩恵を受けた11~13位に食い込んだのは、東京農業大、駿河台大、山梨学院大。東農大は10年ぶり70回目の出場を決め、1年生の前田和摩選手は日本人1位の快走を披露した。山学大は14位の東京国際大と3秒差だった。
関東以外から挑んだ11校の最上位は27位の京都産業大。ただ最後の本大会行き切符をつかんだ山学大とのタイム差は14分35秒あった。以下、立命館大(34位)など30位台が4校、40位台が5校、50位台が1校で、関東勢の壁は厚かった。【駒沢大・根岸大晟】