多くの来客でにぎわう、新型コロナウイルス禍以前の大学祭の雰囲気が戻ってきた。今月5~6日に開催された早稲田大学の大学祭「早稲田祭」。出演団体で大トリを飾ったのが「Waseda Collection(ワセダコレクション)」(通称・ワセコレ)だ。独特のスタイルで開催されるこのファッションショー。裏方で支える主催団体の早大公認サークル「わせプロ」の中心メンバーと学生デザイナーに、開催にかける思いを取材した。【駒沢大学・根岸大晟】
早稲田キャンパス(東京都新宿区)・大隈講堂前の野外ステージで行われたワセコレのテーマは「パーティー」。そのテーマにふさわしい、華やかな衣装をまとった早大の女子学生10人のモデルが登場すると、大勢集まった観客が拍手と歓声で出迎えた。音と光の演出の中、観客はうちわやペンライトを振ったり、写真を撮影したりと思い思いの形で盛り上がりを見せた。
優勝決めない
ワセコレは、2007年に始まった早稲田祭の名物イベントの一つ。大きな特徴は、優勝者を決めないそのスタイルだ。
「ワセジョ」(早大の女子学生)につきまとう「地味」「ダサい」といった偏見を払拭(ふっしょく)する狙いで始まったというこのワセコレ。開始当初は、03年まで早大にも存在したミスコンテストと同じく、優勝者を決める形で行っていた。しかしこのスタイルについては廃止したミスコンとの類似性が指摘され、衣装デザインの独創性やワセジョの魅力を伝えることを軸に置いた、出場者に優劣をつけないショーへと転換した。
ワセコレを運営しているわせプロでは現在、3年生までの会員45人がスタッフとして活動している。スタッフは毎回のショーを企画・立案する企画班、フリーペーパーやSNS(ネット交流サービス)の運営を手がける広報班、スポンサー集めなど企業との折衝を担当する渉外班の三つの部門に分かれて所属。またショーで起用するモデルは、同団体が学内から毎年選抜している。今年起用したモデルは10人。ショーは、大学祭を含めて年に4回開催している。
企画班長の法学部3年、石塚沙葵さん(21)は「各公演は、モデルや衣装の魅力をいかに引き出すかに焦点を当てて企画している。ショーのコンセプトを変えることで、毎回新たなワセジョや衣装の魅力を伝えることができる」と複数開催の意義を説明した。
開催にあたっては、ドレスを扱う服飾メーカーをはじめ、多くの企業から支援を受けている。渉外班長の文化構想学部3年、松田里佳子さん(21)は「多くの企業の方々がワセコレのことを私たち以上に考えてくださっている」と話した。
デザイナーも学内から
ワセコレのもう一つの特徴は、モデルが着る衣装のデザインも早大生が担当していることだ。デザイナーは、わせプロが毎年SNSを通じて募集。今年は5人が起用され、それぞれモデル2人の衣装制作を担当している。
そのデザイナーの一人である文化構想学部4年、鶴崎夏海さん(22)は「コロナ禍で対面活動が制限される中、何かできることはないかといった好奇心からデザイナーに応募した」と言う。ただ鶴崎さん自身は服のデザイン経験はなく、最初は、衣装のデザインに関するウェブ情報を集め、まねすることからデザインを始めていった。
またデザイナーズブランドの雑誌に目を通したり、ショッピングモールに足を運んだりして目を肥やすことに努めた。印象に残った服に用いられた工夫や技術は、お絵描きの感覚でデザイン画に描きとめ、自分自身の衣装制作に活用してきたという。
優勝を競わないワセコレのスタイルについて「モデルの可愛さに固執するのではなく、衣装自体の魅力を伝えているのはとても魅力的だと感じていた」と話す鶴崎さん。「時間をかけてデザインした衣装をモデルが着て、実際のショーで照明や音楽と合わせて目にするととても達成感がある」と話した。
石塚さんと松田さんが「装飾の細かい部分までこだわっていて、可愛らしい衣装を作ってくれている」と称賛する鶴崎さんのデザイン。ワセコレでの3年間のデザイナー経験で自信を深めた鶴崎さんは、来春アパレル企業に就職するという。
早稲田祭を終えて、松田さんは「関わってくれたすべての方々に感謝を伝えたい。ワセコレが最大限輝くようサポートできたことに誇りをもちたい。そして改めてワセコレが好きだと感じた」と話した。鶴崎さんは「4年生として迎えた最後のショーで、3年間の集大成となる衣装を制作することができ、目標としていたモデルの魅力を最大限引き出すことに、少しでも近づくことができた」と締めくくった。
「輝くワセジョ」の発信を狙いとするワセコレ。石塚さんは「そのメッセージは学内には浸透してきていると思うが、中高生や早大をよく知らない方にはまだ十分届いていない。来年以降も後輩たちが今年以上のステージを見せてくれると期待している」と語った。