読見しました。:思い出のピンバッジ

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 自宅の部屋の掃除をしていたある日、引き出しの中からスケート靴をかたどった小さなピンバッジが出てきた。

 中学3年の春、受験勉強に集中しようと決意し、ずっと習ってきたフィギュアスケートをやめた。このバッジは、その最後のレッスンでコーチからもらったもの。「これを見てスケートのことを思い出してね」という意味だったのだろうか。

 思えば、習っていた7年間、いろいろなことがあった。うまく滑れず悔し涙をこらえながら練習したこと。苦手だった技を習得し、いつも厳しかったコーチに褒めてもらったこと。初めて自分だけの演技曲をもらえた時は、うれしくて何度も何度も繰り返し聴いていたっけ。小さなバッジを見ていると、記憶の底にあった思い出が、鮮やかによみがえってきた。

 気づけば、スケートをやめてから、習っていた年数と同じぐらいの年月がたとうとしている。そんな時間の流れを感じさせないほど、思い出は今もきらきらと、胸の奥深くで静かに輝いている。

 また、思い出に浸りたくなったらこの引き出しを開けよう。そう思いながら、バッジをもとの場所にそっと戻した。【立教大・明石理英子、イラストも】

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