フリーペーパー発行 mof. 女性のひとり旅、応援11年

記事

ひとり旅に興味はあるけれど、その一歩をなかなか踏み出せない……。そんな女性たちの背中を押してくれるのが、昨年創刊10年を迎えたフリーペーパー「たびぃじょ」だ。10月1日に発行された最新号では、レンタサイクルやローカル線など、普段使わない移動手段で国内を旅する企画が目を引く。発行に携わる学生団体「mof.」(モフ)のメンバーに、制作の舞台裏や今の思いについて話を聞いた。【東洋大・荻野しずく】

1万部を年2回

 「たびぃじょ」とは「可愛くて、おしゃれで、おちゃめな、ひとり旅好きな女性」を指す造語。団体が発足した2010年当時、ひとり旅をする女性には、どこか無粋な、おしゃれとはほど遠いイメージが根強かったそうだ。しかし、団体の設立メンバーが実際に旅先で出会った女性とのギャップを感じ、もっと軽やかで可愛らしいイメージを広めるべく考案したのが、この名称だった。

 「女性のひとり旅を応援し、偏見をなくしたい」。そんな思いを込めて11年から年に2回、4月と10月に発行し続けてきた。発行部数は各1万部で、最新号は23号目となる。企画立案に始まり、取材、写真撮影、執筆から表紙や記事のデザイン、編集、そして配布まで、すべて学生の手で行われ、後輩に引き継がれていく。現役メンバーは11人で全員女性。元々ひとり旅が好きだった人もいれば、代表を務める立教大文学部3年の渡辺菜々子さん(21)のように、団体を知ってから初めてひとり旅を経験した人もいるそうだ。

タイアップで資金調達も

 団体の現在の拠点は、東京・秋葉原にあるレンタルスペース。大量の荷物の保管はできないため、刷り上がった冊子は自宅管理だという。「印刷所から各メンバーの家に1000部くらい届くので、スペース確保が大変です」と苦笑いのメンバーたち。冊子の配布場所は、格安で宿泊できる日本全国のゲストハウスや、都内を中心とした大学、カフェ、書店など150カ所以上。発行後、約3カ月かけて遠方には発送し、近場にはメンバーが手分けして直接届けている。現在も最新号の配布活動中だ。

 冊子発行のための資金調達を目的とした営業活動も欠かせない。例えば観光協会などから協賛金を得て、先方とプランを練りながら記事を作っていく。最新号では「尾瀬檜枝岐温泉観光協会」とタイアップ。緑豊かな檜枝岐村(福島県)の旅プランを掲載している。一方でメンバーのやりたいことを尊重する気風のためオリジナル記事も多い。毎号定番の「HOW TO ひとり旅」というコーナーでは、宿の選び方や空港での動き方など、ひとり旅に役立つ知識を分かりやすく紹介。他にもメンバーが過去の旅を振り返ったり、ひとり旅の達人に話を聞いたりするなど、学生目線の記事が豊富な点が特徴だという。

 発行してきた冊子はほとんどB5判で、30~40ページほど。紙質や重さにもこだわり、手触りの良さや持ち運びやすさを重視している。「たびぃじょ」をガイドブックにひとり旅をしてほしいとの願いからだ。また、より多くの人に読んでもらうため17年からは電子書籍版も導入したが、今のところ紙の利点の方が大きいという。渡辺さんは「たまたま冊子を見つけて、たまたま開いたページで行きたい旅先に出合えることがある。そんな偶然性がフリーペーパーの魅力なんです」と熱っぽく語る。偶然を楽しめる旅との親和性を大切にしているのだ。

コロナ逆風には新視点で

 創刊以来、海外の旅先を中心に特集してきたが、当初は低予算で個人旅行をするバックパッカー寄りの記事が多かったという。しかし、スマホの普及で地図の確認や宿の予約が手軽になったことから、旅のスタイルの多様化に応じた記事も載せるようになった。冊子のデザインもシンプルなものに変化している。

 昨年は新型コロナウイルス感染症の大流行で、旅そのものが難しい事態に直面。海外旅行に行けない、協賛金が集まりにくいなど、冊子発行に向けて逆風となる不測の環境変化に相次ぎ見舞われた。そこで、いかに視点を変えて国内限定の面白い記事を作るか。アイデアを出し合い、全国各地からお取り寄せできるあんパンを特集するなどの斬新な企画も生まれたという。こうした変化の中で、副代表を務める聖心女子大現代教養学部3年の藤澤藍さん(21)は「自分自身の旅の定義が変わってきた」と実感を込めて話す。荷物を詰め込んで遠くに行くことに限らず、近場の小さなひとり旅があってもいい。そう見つめ直すようになったそうだ。

 ひとり旅の醍醐味(だいごみ)について尋ねると「いくつかあるけれど、一つは想像よりも自分がたくましいことに気づけること。それが自信にもつながります」と渡辺さん。「たびぃじょ」を手に取った読者からは「実際に初めてひとり旅に行ってみた」とうれしい報告も届く。そうした声が、活動のやりがいになっている。

 今は旅に出るのが困難でも、ページをめくることで、少しでもワクワク感を味わえるのではないだろうか。新しい旅のカタチを探究しながら、「たびぃじょ」はこの先も、ひとり旅に憧れを抱く女性にエールを送り続ける。

PAGE TOP