暗闇にキノコの輝き… 人工培養、観光資源化へ 奮闘する大学研究室

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暗闇で緑色に光る姿が肉眼でも見えるエナシラッシタケ。群生すると、まさに無数に光る星をちりばめたようだという=青島神社で2020年7月(研究室提供)
暗闇で緑色に光る姿が肉眼でも見えるエナシラッシタケ。群生すると、まさに無数に光る星をちりばめたようだという=青島神社で2020年7月(研究室提供)

 暗闇で発光するキノコがあることをご存じだろうか。「エナシラッシタケ」は、直径5ミリほどの小さな白いキノコだが、暗い場所では夜空の星のように美しく光る。昨年、宮崎大学農学部森林緑地環境科学科きのこ学研究室「ピルツラボ」が、世界で初めて人工培養に成功した。珍しいキノコの研究と、キノコを用いた地域おこしに情熱を傾ける原田栄津子助教(48)と学生たちに話を聞いた。【早稲田大・尾崎由佳(キャンパる編集部)】

明るい場所で見たエナシラッシタケ(夜間に明かりを照らして撮影)。朽ちたビロウの葉や花枝などに着生する=青島神社で2020年7月(研究室提供)
明るい場所で見たエナシラッシタケ(夜間に明かりを照らして撮影)。朽ちたビロウの葉や花枝などに着生する=青島神社で2020年7月(研究室提供)

 キノコ研究に特化した大学研究室は、九州では宮崎大のみ。2019年4月に原田助教が同大農学部に着任し、その1年後に研究室が発足した。

 「高校生まではシイタケが食べられず、キノコは苦手な存在だった」という原田助教だが、地域産業としてのキノコ栽培に興味があったため、大学から本格的にキノコの研究を始めた。大学院を経て、27歳の時に青年海外協力隊に参加。派遣先の南米チリでも2年間、研究に取り組んだ。帰国後、三重県内の企業で薬用や食用のキノコの人工栽培化に関する研究に17年間従事してきた。筋金入りのキノコ研究者で、今では好きなキノコは「ありすぎて選べない」という。

宮崎は「光るキノコ」の宝庫

原田栄津子助教(左端)と研究室の学生たち。原田助教は「キノコはなくてはならない存在。人類より先に生まれている大先輩」と語る=研究室提供
原田栄津子助教(左端)と研究室の学生たち。原田助教は「キノコはなくてはならない存在。人類より先に生まれている大先輩」と語る=研究室提供

 国内で十数種見つかっている「光るキノコ」のうち、宮崎県ではエナシラッシタケを含む11種類が確認されている。まさに「光るキノコ」の一大名所だ。「同じ『光るキノコ』でもそれぞれ特徴が違うところが興味深い」と原田助教は話す。エナシラッシタケの特徴は、発光期間が約1カ月と比較的長い点だ。光る仕組みはまだ分かっていないことも多いが、梅雨などの湿度の高い時期によく光るのだという。蜂の巣に似た外観も印象的だ。

 野生のエナシラッシタケは、日本の本土では宮崎市の青島のみで確認されている。青島はビロウをはじめとする貴重な亜熱帯植物が多く生い茂っており、観光地としても人気のスポットだ。ただ、エナシラッシタケが自生するのは日南海岸国定公園の指定地域内で、一般人が立ち入ることはできない。光る姿を多くの人に見てもらいたいという思いから、研究室での培養研究を始めたという。

 研究室の学生たちは調査のため、定期的に青島を訪れた。現地調査が好きだという3年生の原明日海さん(22)は「自分にとってキノコは未知の存在。新事実が分かるようになるのはとても楽しい」と話す。4年生の杉本拓生さん(23)は、出身高校の卒業研究でキノコをテーマにしたことがきっかけでキノコに興味を持つようになったという。現在はエナシラッシタケに加え、同じ「光るキノコ」の一種であるヤコウタケの研究を進めており、大学院で学びを深める予定だ。

観光資源化への取り組み着々と

 エナシラッシタケの人工培養研究は、原田助教が以前行っていた他の「光るキノコ」の研究が役立ったこともあり、想定よりもスムーズに進んだ。人工培養に成功したのは昨年11月。原田助教によると、生態が未解明な野生キノコの人工培養を成し遂げるには、一般的に10年ほどかかるというが、1年もたたないうちに成功した。一般公開が可能になったため、次は観光資源としての活用を目指すことが新たなテーマになった。「光るキノコ」の人工培養から、観光資源化まで手掛けている大学は他にはないという。

 第一歩として、研究室が主体となり、今年の7月17~23日に宮崎市の大淀川学習館で、同24、25日には同市の宮交ボタニックガーデン青島で、「光るきのこ展示」を開催した。宮崎県内で見つかった「光るキノコ」の写真展示に加えて、テントを設置して暗い場所をつくることで、人工培養したエナシラッシタケの光っている姿を観察できるようにしたのが最大の目玉だ。

 展示期間中は研究室の学生が常駐し、来場者に展示の説明を行った。「説明の仕方を考えるのが難しかった」と話すのは、3年生の木村健人さん(20)。来場者は親子連れが多く、それぞれの年齢層に合わせた対応が求められたという。

 展示は連日大盛況で、9日間で予想を大幅に超える約3000人が来場した。エナシラッシタケを観察した人からは「きれい」「かわいい」といった声が聞かれた。展示を終えた学生たちも口々に「やりがいを感じた」と語った。

「研究成果を社会に還元したい」

 現在は、宮崎県林業技術センターと協力して、さらに規模を拡大した人工培養を試みている。菌が成長しやすいよう人工的に作る「培地」をより大きくしたり、大量培養のための試験を行ったりして、培養技術を確立するための研究を進めている。雑菌に弱く培養が難しい一方で、「人工培養したものの方が野生のものよりサイズが大きい」など新たな発見もあった。

 7月のイベントの成功に力を得て、観光資源化を目指す取り組みはさらに加速・拡大している。今月24日には、宮崎市の宮崎県総合博物館主催の特別展「発見!きのこランド」内のイベントとして、研究室主導で「宮崎きのこマーケット」を開催する。キノコ愛好家らがブースを出店し、食用キノコやシイタケを材料に使ったパン、郷土人形とのコラボ商品をはじめとしたキノコグッズや書籍などを販売する。当日は生産者、大学、博物館関係者に加えて、高校生も運営側として参加する。また、11月3日と6日には博物館内のスペースで「光るきのこ観察会」も行い、エナシラッシタケを一般展示する予定だ。

 学内から一歩踏み出して、イベントの他にも動画配信などで一般市民向けに魅力を発信する取り組みを進める研究室メンバー。原田助教は「研究成果を社会に還元したいという思いがある。キノコの良さを人々に伝え、社会の関心が高まると、研究への意欲もさらに増す」と話した。

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