読見しました 備えあったが、後悔あり

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 「備えあれば憂いなし」。私の父の座右の銘だ。心配性な彼の身の回りの物には、必ずと言って良いほど「備え」がある。プリンターもその一つだ。

 コロナ禍で父は在宅勤務に、私もオンライン授業を受けるようになり、パソコン、Wi-Fiルーター、プリンターが、我が家の新たな三種の神器となった。そのため、突然の故障に備えて、ルーターとプリンターは2台目を購入。それら2台目も常時使える複線ネットワークを構築し、父は「これで安心やろ?」と得意げであった。

 そんな父の心配は的中。プリンターの1台が先日、印刷中に大きな音を立てて、突然動かなくなった。「備え」がなくなったことを不安に思った彼は、迷うことなく3台目を追加購入した。しかしそれからまもなく、動かなくなった原因はただの紙詰まりだったことが判明。結局、追加購入したプリンターは物置行きとなってしまった。

 「判断を早まったな……」と悔しさをにじませる父。そんな表情を見るのは、初めてかもしれない。実のことを言うと、追加購入の決断が早すぎると私も感じていたが、落ち込んでいる父を前にして、今更そんなことを口にはできない。

 備えあったが、後悔あり。座右の銘があだとなった父に「プリンターなんて何台あってもいいよ」と、苦し紛れに慰めるのが精いっぱいだった。【立教大・明石理英子、イラストも】

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