すたこら ひとり晩酌

すた・こら

 トクトクトク、とおちょこに1杯。今日はキリッとしたうまみが魅力の、宮城の純米酒をちびり。最近はひとりでの晩酌が習慣になっている。

 本当はビールジョッキを片手に友人と語らう飲みの席が好きだ。心地よく酔っているから、とりとめのない話もじんわりと心にしみてくる。帰り道はポカポカといい気分。だからお酒は楽しい。

 ただ昨春以降、飲み会に誘われるたびうれしさとためらいとむなしさが入り交じる気持ちを抱くようになった。外食が感染のリスクを高めるのは必至。わかっていても行きたい衝動に駆られる。しかし最後は家族の苦い顔で心にブレーキがかかる。「一緒に住む祖母が疾患持ちで……」。諦めの悪い自分を納得させるように、実家暮らしを断る理由にした。

 やむにやまれず諦めた私がいれば、迷いながら出向いた人もいるだろう。きっと杯を交わす人々の思いも千差万別。いろいろな葛藤があるはずなのに、そのグラデーションが見えにくい。「若者の危機意識が低い」と苦言が聞こえる一方、「厳しい家庭なんだね」と哀れみを込めて友人が言う。それぞれ自分の語りやすい立場から他者を非難しているようでもどかしい。こんな時こそ飲み、語り合って異なる立場に想像力を働かせたいのに。

 春になり、2回目の緊急事態宣言が明けた。久しぶりにささやかな飲み会へ赴き、血の通う会話に顔がほころぶ。でも心の奥底には、後ろめたさもある。もうしばらくはひとり晩酌を続けようかなと、思い迷う。【上智大・川畑響子】

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