卒業 すた・こら/上 春到来、希望胸に

すた・こら
東洋大 佐藤太一
東洋大 佐藤太一

 各地で桜の花がほころびつつある。昨年に続き、新型コロナウイルスの収束が見えない中での卒業シーズン。キャンパる編集部では今年、7人の記者が門出を迎える。学び多き大学生活を振り返って、それぞれが胸の内をつづった。(掲載は50音順)

出会いが収穫に 東洋大 佐藤太一

 2年前、キャンパるに入ったばかりの私は、「新人コラム」に思いのままをつづった。父を亡くしたこと、難病にかかったこと。喪失を経て、つらさや悲しみに寄り添うことの大切さに気づいたこと――。

 書くことに、少しためらいもあった。自己紹介的な「新人コラム」でいきなり重苦しい過去を打ち明けられて、メンバーはどう思うだろう。打ち解け始めていた仲間たちと、気まずくなるかもしれないとも思った。

 だが、そんな心配は無用だった。会議では、私のコラムも他の記事と変わりなく、表現や構成で良いところは評価され、悪い点は指摘された。より良い紙面のため、会議で自由に意見を交換し、自分と向き合ってコラムを書く。そういうことをずっと続けてきたメンバーは、私のことも自然に受け入れてくれた。

 何でも話せる。そう思える場所を得られた。無意識にそういう場所を求めていたのかもしれない。みんな話を真摯(しんし)に聞いてくれるが、必要以上に踏み込んでくることもない。だから話題の硬軟を問わず、何でも話すようになった。

 コロナ禍で会議は画面越しになり、会議が終わればメンバーの顔は画面から消える。私的なことを話す機会は減ったまま、キャンパるを去ることに満ち足りなさもある。それでも、たまに顔を合わせるメンバーとは話が尽きない。きっとこれからもそうだろう。そんな人たちと知り合えたことが2年間での最大の収穫だ。

私の「形」作りたい 東京大 高橋瑞季

東京大 高橋瑞季
東京大 高橋瑞季

 「人に恵まれる」とは、どういう環境を指すのだろう。心から楽しいと思える場か、それとも安らぎを感じられる場か。この4年間「人に恵まれた」と胸を張って言える私は、こう答える。「これから先、こういう自分になりたいと、目指したい姿が見えてくる環境だ」と。

 人のあり方、生き方に「形」があるとすれば、それはおそらく、他者との出会いを通して変わるものだ。他者のすてきなところにならうことで、私たちの「形」は途方もない時間をかけて変化していく。だから、目指したい「形」がつかめるということは、今までにどれだけすてきな人たちに巡りあったか、人に恵まれたかの証しではないだろうか。

 この4年間、この人のここが魅力的だな、と感じる瞬間がいくつもあった。キャンパるでの日々もそうだ。自分よりも、周りの人のことを考えて行動する仲間たち。私に足りないものを痛感する日々だった。

 自分の欠点ばかりを意識していると、身動きが取れなくなることもある。そんな時に、「それでも、瑞季ちゃんだから私は友達になりたいと思ったんだよ」と、声をかけてくれた大学の友人。足りないところもあるけれど、私にもきっと良い部分はあるんだと思えた。

 今の自分を否定はしない。けれど、人に恵まれたからこそ、こう変わりたいと思う気持ちもある。みんなのすてきなところに、大学生活でたくさん出会えた。それを糧にこれからは私だけの「形」を作っていきたい。

欲張りに生きていく 法政大 平林花

法政大 平林花
法政大 平林花

 大学を卒業すると、進むレールが数えきれないほどに分かれる。同じ学校で同じ勉強をして思い出を分かち合ってきた友人とも、同じ熱量で共有できることが少なくなる。単純に寂しいなあと思う。

 私は幼い頃から人との別れが多かった。親の仕事の都合で四つの都県に住んできた。通った小学校は三つ、中学校は二つだ。引っ越しが決まるたび、大の仲良しだった友人といや応なしに離ればなれになってきた。時がたつと県を越えた手紙のやりとりもなくなり、その土地で暮らしていた記憶も薄まっていった。

 こんな経験から「今」を欲張り楽しむことにこだわってきたと思う。友人とのたわいのない話も好きな人への告白も、できるときにしておこう。文化祭ではダンス、体育祭では応援団、合唱の指揮など有志の活動は進んで参加した。大学生になると留学をし、キャンパるにも入った。

 勇気が出なくても、「できるのは今だけ」という希少性とてんびんにかければ、迷わず行動できた。後悔したくない一心で、その時々を満喫してきたつもりだ。ただ別れの経験をいくら積んでも、仲良しの友人と疎遠になることには慣れない。未練がましいが寂しいのだ。

 今を楽しむことで寂しさに対抗してきたが、無理に欲張らず生きることに大人っぽさも感じる。今の私と対照的な、余裕のある大人だ。年を重ねれば変化に寛大になっていくのだろうか。私はまだ若造らしく欲張りに生きていきたい。

大事にしたい同期 学習院女子大 渡口茉弥

学習院女子大 渡口茉弥
学習院女子大 渡口茉弥

 「同期は大事にしたほうがいいよ」。久しぶりに会った幼なじみにこんな言葉をかけられた。年齢は同じだが、専門学校を卒業し、私より2年早く社会人となった彼女。ホテルのレストランでの仕事はとても大変そうだけれど楽しそう。私の憧れの存在だ。

 今まで仕事のことを話すことはあまりなかったが、自分も4月からいよいよ社会に巣立つ。社会人としての先輩である彼女に「働くうえで大切な心構えみたいなものってある?」と聞いてみたところ、返ってきたのが初めの言葉だった。どんなに大変でも彼女が笑顔でいられるのは、同期の仲間を大事にしているからなのだろう。言葉の意味を詳しく聞かなくても、そう語っているように思えた。

 思えば私も、4年間の大学生活で先輩、後輩、たくさんの人と関わり、数えきれないほど支えられてきた。その中でも一番長い時間をともに過ごしたのは、同期の友人たちだ。たわいのない話をして一緒に過ごす時間が好きだった。何ごとも抱え込みがちな性格の私にとって、そこが心の休まる場所になっていたから。別れが近づいた今、当たり前のように思っていた存在の大切さに改めて気づいた。

 先日、就職先の説明会が行われたが、同期入社の人たちと会話をすることはかなわなかった。コロナ感染防止のためだ。新生活の始まりに不安は大きい。今までにない苦労もあるだろう。そんな時にはあの言葉を思い出そう。

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