なにコレ!? 発達障害での困難解消を 筑波大、学生生活を支援

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毎日新聞2020年12月8日 東京夕刊

 筑波大学は5年前から、発達障害のある学生が充実した学生生活を送れるよう支援する「発達障害学生支援プロジェクト」を推進している。もともと身体に障害のある学生への支援に熱心だった同大学が、さらに一歩踏み込んで、外からは分かりにくい障害の専門的支援に着手したプロジェクトで、国内の大学では先進的な取り組みだ。今月3~9日は、障害に対する関心と理解を深めるための「障害者週間」。同週間に合わせ、筑波大の取り組みを紹介したい。【筑波大・西美乃里】


発達障害の理解を深める狙いでプロジェクトが作成した漫画。自己紹介に用いる当該者学生もいるという。

 筑波大では2015年10月、視覚や聴覚、肢体など何らかの障害がある学生の修学支援やキャリア支援などにあたっていた学内の3部署を統合した「ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター(DACセンター)」が発足。そして同センターの下、発達障害領域に特化して支援の研究・実践を行う同プロジェクトが始動した。

 プロジェクトの担い手は常勤・非常勤の12人の教職員たち。18年9月からは文部科学相が認定した「拠点校」として、研究や実践の成果、ノウハウを他大学と共有する取り組みへと広がった。

入学を機に気づき

 支援活動では、当事者学生の自己理解を助ける「アセスメント」という心理・知能検査を行っている。「大学入学を機に、自分の特性に気づく学生はたくさんいます」。そう話すのは、プロジェクトの専任教員として障害のある学生の相談に応じてきた佐々木銀河准教授(33)だ。

 数ある講義の中から何を選択しどんな時間割を組むか。課題提出も見据えたスケジュール管理は、友人らと情報交換しながら自分で行うのが大学生の原則だ。しかし、コミュニケーションが苦手な自閉スペクトラム症などの発達障害の症状があると、周囲に頼れず無理な時間割を組んでしまうこともある。困難に直面して初めて発達障害の傾向があることに気づく学生が多いという。

 同大理系学部に在学中の男子学生、Kさん(20)は「興味に合う授業に(カリキュラムの関係で)参加できなかった。自分で立てた綿密な計画通りにいかないと、不安が増す。1週間眠れないこともあった」と自らの経験を語る。入学後1年間は授業に参加できない日々が続いた。その後大学側の紹介もあり、アセスメントを受けた。「改めて自分の特性が思い違いではないと分かった」と当時を振り返る。現在は無理のない授業復帰を試みている。

ガイドブック作成も

 さらに、発達障害のある学生への支援を他の学生が行うという同障害専門の「ピア・チューター(学生による学習補助者)」制度も19年から始動した。参加を希望する学生はまず、発達障害に関する知識を深めるための指定講座を受講。その後、同チューターとして支援に携わる。

 ただし筑波大では、当事者と支援学生の心理的負担を考慮し、支援学生のサポートは当事者に対して直接ではなく、専門知識を持つ教職員を介して行う。現在20人程度いるピア・チューターの主な活動は、発達障害の悩みやその解決策を紹介するガイドブックの作成だ。他大学でも共同利用が可能で、これまで85校に配布されてきた。

 生命環境科学研究科修士2年の鈴木智晴さん(24)はピア・チューター制度の開始以来、活動に携わっている。自分にも発達障害の傾向があるのでは、とアセスメントを受けたことが参加のきっかけだった。「活動での学びを自分にも還元できる」と、ガイドブック掲載情報を紹介する動画の作成や、同チューター養成講座での講演も行う。

 しかし活動開始から1年もたたない今年4月、コロナ感染予防のため取り組みは中断。10月からはオンラインで冊子作成などの活動が再開されたものの、鈴木さんは「チューター同士の交流機会が減ってしまった」と嘆く。

オンライン授業に壁

 同じくコロナ感染予防のために導入されたオンライン授業も、当事者学生たちのとらえ方はさまざまだ。佐々木准教授によると、プロジェクト側には「聴覚過敏のため、音量を調節できるオンラインの方が集中しやすい」という前向きな意見が寄せられた一方、Kさんは「パソコンの光に弱く、長時間画面を見ていると体調を崩す。早く対面授業に戻ってほしい」と悩む。

 ウィズコロナの時代、筑波大をはじめ全国の大学の多くは、今後の授業方式としてオンラインと対面の併用、使い分けを模索している。佐々木准教授は「授業形態が選択可能になれば、より一人一人の特性に合った修学ができるようになる」と話す。学生が自身の特性に合った授業環境を選べれば、大学生活の質の向上につながりそうだ。対面での活動の復活で、ピア・チューター制度もさらに活性化するかもしれない。

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