秋の夜長に「食」の本を

 秋本番。秋といえば、食欲の秋。旬を迎える食材も多く、つい食べ過ぎてしまった、なんてこともあるのでは? 今回はそんな時期にちなんで、キャンパる記者6人が、「食」をテーマにおすすめの作品を紹介する。読書の秋でもある今、気になる1冊を見つけて、ぜひ手にとってほしい。(書名、著者名、出版社、発行年、税込み価格の順。漫画の書影・発行年・価格は第1巻のもの)【まとめ、立教大・明石理英子】


 1「幸福な食卓」 瀬尾まいこ(講談社文庫)2007年 682円

「幸福な食卓」

 たとえ食卓を一緒に囲んでいる家族だとしても、心の内に抱えている問題が全て分かるわけではない。悩みごとは家族よりも、友人や恋人など、家族以外の他人の方が打ち明けやすいこともある。

 思春期の主人公、佐和子は毎日、家族と食卓を囲んでいた。そこで度々明かされる父や母、兄の重大な決断。佐和子が成長するにつれて、家族の形が変わっていく。

 変わりゆく家族の姿を受け入れる一方で、佐和子自身は、学級内での理不尽な扱い、恋人との突然の別れなど、他人との関係に翻弄(ほんろう)される。深く傷つき家族に向き合えなくなる佐和子だが、結局は、家族の絆(食卓)を支えに立ち直っていく。

 この作品は、思春期の主人公の心の動きがとてもクリアに表現されている。それに加えて、佐和子や家族の性格や心情の変化などを、朝昼晩の食事やおやつ、その人の食欲の状態からも読み取ることができる。食という視点を通じて、人とのつながりを考えることのできる小説だ。【日本女子大・鈴木彩恵子】


 2「今日もごちそうさまでした」 角田光代(新潮文庫)2014年 572円

「今日もごちそうさまでした」

 「夜食」という言葉がある。一日三食が奨励される現代ではある意味禁忌だ。私も、親に隠れて深夜にもそもそと何かを食べたことはほとんどない。が、思い出してしまった。寝床へのお供に1冊の「食事」を持ち込んでいたことを。中学2年の秋ごろで、それがこのエッセーとの出会いだった。

 著者の人生の機微が、季節ごとに配列された各食材に彩りと形を与えていく。彼女は料理が得意だが、かなりの偏食、そして肉好き。垣間見える不健康な食生活は、「夜食」と同様、世間から後ろ指をさされる気もする。

 しかし、例えば作品に出てくる「さつま芋」。若い頃「ぱたりと食べなくなってしまった」にもかかわらず、彼女はその思い出をとうとうと語る。締めくくりに「さつま芋、ごめん」。なんとも憎めない著者なのである。

 布団に入り目をこすりつつ、話し言葉のような文体を味わう。本への満足感とおなかの満腹感はそっくりだ。記憶に残るあの時間に名前を付けるなら、「深夜の読書」よりも、やはり「夜食」だろうと改めて思う。【一橋大・鹿島もも】


 3「ワインと外交」 西川恵(新潮新書)2007年 770円

「ワインと外交」

 「ワイン」と「外交」? 意外な組み合わせのタイトルに興味をひかれた。外交というと、国旗の前で握手する首脳たちの姿が思い浮かぶ。そんな国を背負った大舞台の裏にも食事がある。著者は、外国の賓客をもてなすお酒や料理という切り口から、外交をひもといていく。

 誰を、いつ、どこで、どんな料理で、どんなふうにもてなすか。全てが相手国へのメッセージだ。豪華なフルコースだけがおもてなしではない。家族経営の小さな店で、両国共通の家庭料理を囲む。お互いの国の曲を演奏する。そうして、親密さを演出することもある。はたまた、文化や価値観の違いからもめることもあり、気が抜けない。

 紹介される宴席の様子は華やかで、読み物としても楽しい。外交官の日ごろの苦労もしのばれる。食事中でもこの気配り、ましてや交渉の場面では……。味気ない声明文ができるまでには、こうした一人一人の努力がある。

 国同士の付き合いも、最後は人と人。食事は、国境を超えて心の距離を縮めてくれる。そんなことを思い起こさせる1冊だ。【慶応大・瀬戸口優里】


 4「ハルとアオのお弁当箱」(第4巻まで刊行中) まちた(コアミックス)2018年 638円

「ハルとアオのお弁当箱」

 誰かが作ってくれるお弁当は、自分で作るより何倍もおいしく感じてしまう。自分のためを思って作られたお弁当は、どんなに冷めていても「あたたかい」。

 食に興味がないオタク女子の主人公・ハルと、オネエ系男子のアオは、行きつけのお店で出会い、ひょんなことから同居を開始する。そこで二人は「お弁当の作り合い」を共同生活のルールとして設けた。お互いの価値観や生活スタイルは違えども、ご飯をおいしく思う気持ちは同じだ。お弁当の交換を通じて、ハルとアオは互いを知り、今までとは少し変わった日常を過ごしていく。

 アオの作るお弁当は、偏食ぎみのハルでも食べられるような栄養バランスの整ったおかずばかりだ。ハルも、自分を気遣うアオのため苦手な料理作りに奮闘する。そんな二人の、相手を思いやる姿に心が温まる。登場するレシピも、簡単ですぐに作ってみたくなる。本作品は今秋にドラマ化され、放映中だ。ぜひ、原作漫画と併せて二人の生活を楽しんでほしい。【上智大・太田満菜】


 5「銀の匙 Silver Spoon」(全15巻完結) 荒川弘(小学館)2011年 499円

「銀の匙」

 「つらくても逃げずに立ち向かっていけ」という、よくある激励の言葉。背景にあるのは「逃げること」は悪、という世間常識だ。漫画の主人公・八軒勇吾はつらいことから逃げた。しかし彼はそんな自分に引け目を感じていた。彼自身も、逃げることは悪だと考えていたからだ。

 舞台は北海道の農業高校。勇吾は私立中学に通っていたが、受験に失敗。学力競争と父への恐怖から逃げるため、この高校に進学した。そこで彼は食べることを通じ、命の大切さを学んでいく。そして彼は気づく。逃げ出した自分と違い牛や豚は逃げられず、人のため命を落とすしかないことに。

 逃げることは悪なのだろうか。我々は家畜と違い逃げることができる。勇吾は逃げた先(農業高校)での出会いや経験により、徐々に自信を取り戻すことができた。逃げることで救われることがあるはずだ。大きな壁にぶつかったとき、校長先生が勇吾を励ます際に発したこの言葉を思い出してほしい。「生きるための逃げは有りです。有り有りです」【独協大・田中飛路】


 6「駒大陸上部の勝負めし」 大八木京子監修(枻(えい)出版社)2020年 1430円

「駒大陸上部の勝負めし」

 「勝負めし」で何を思い浮かべるだろう。ゲン担ぎのカツ丼、大好物、なじみの食事……。アスリートにもここ一番の「勝負めし」がある。

 大会前、選手たちは何を食べているのか。駅伝ファンとしては気になるところ。細く引き締まった体で、長い距離を走りきるスタミナの秘密を知るべく、この本を手に取った。

 本書は、食事の写真と共にレシピやインタビューを掲載したムック本だ。監修者は、駒沢大学陸上競技部の寮母である大八木京子さん。夫の弘明氏(同部監督)と二人三脚で、大学駅伝の名門である同部を長年支えてきた。

 前半は、卒業生や現役学生の「勝負めし」を紹介。後半は「駒大流・強くなるための食事学」を学べる内容だが、豚キムチや具だくさんのカレーなど、意外にも親しみあるメニューが並ぶ。家庭的な雰囲気を大切にし「食事はおいしく楽しい時間であってほしい」という思いからだ。

 今月1日の全日本大学駅伝では激戦を制し、優勝した駒沢大学。強い体を作る秘訣(ひけつ)が、凝縮された1冊。【津田塾大・畠山恵利佳】

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