読見しました:「温かい居場所」

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 「本日をもちまして閉店することにいたしました」。お気に入りの店からの突然のお知らせだった。画面の文字を何度も読みながら、動揺する心を落ち着かせた。

 東京都内にある小さな小さな喫茶店。駅から少し離れたビルの2階にあった。店内はカウンター席がわずか八つほど。タイルには手書きのメニュー表、カウンターにはお祝いの花、窓ガラスにはお客さんが書いたイラスト。狭い店内は人の温かさでいっぱいだった。

 初めて訪れたのはオープンしたばかりの2年前の春。先輩の紹介で知り、ネットでも話題になっていたため、興味本位で訪れた。居心地が良く、それからときどき通うようになった。

 思えば、なにかに迷ったとき、悩んだとき、決まってそのお店に足を運んでいた。答えが欲しいわけじゃない。解決するわけでもない。ただ、一人では不安で潰れてしまいそうで、逃げ込むように店を訪ねていた。

 閉店のお知らせの3カ月前、「店主の体調が芳しくないため、しばらくお休み」との告知があった。そうか、じゃあ再開したらまた行こう。今度は看板メニューのナポリタンを注文しようかな……。もう二度と食べられないなんて、思ってもみなかった。「あたりまえ」は突然いなくなる。だからこそいとおしい時間なのだ。【津田塾大・畠山恵利佳、イラストは慶応大・瀬戸口優里】

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