すたこら:「不要不急の日々」

 数日後に日本を飛び立つ予定だった。初の海外生活と1年間の学びの抱負をこのコラムに書きとめるつもりだった。なぜ今年に限ってこんな事態に。「仕方ない」と自分に言い聞かせながらも、憂さ晴らしすらできない真夏の日々を、クーラーの利いた自宅で過ごしている。

 キャンパるの会議がオンラインになって5カ月がたった。まだ、画面が消えた瞬間、急に静かになる自室に耐えられない。私には、会議が終わるとザワザワとみんなが関係ない話を始める、そんな空間が心地よかった。

 「不要不急」がことさらに制限され、それなら「必要急務」とはなんだろうと考えてみる。大学生の活動の大半は不要不急なのかもしれない。リスク軽減のためには我慢すべきことなのかもしれない。でも、不要不急の中で育まれる関係性や感性や思い出の方がよっぽど豊かだと思うのは、学生のわがままだろうか。

 たいして盛り上がらない飲み会とか、講義中の教授のくだらない雑談とか。そんなことすら恋しい。10回に1回の確率でも、将来を語り合ったり、興味のそそられる分野に出会えたりする偶然こそが、不要不急の醍醐味(だいごみ)だったと今は思う。

 これからどう過ごすかと考えた末に、休学して偶然出合った会社で長期インターンシップを始めることにした。留学は来年、再挑戦したい。でもわざわざオンラインでその報告をするのは気恥ずかしい。本当は何気ない日々の会話の中で、みんなに報告したかったんだ。【上智大・川畑響子】

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