大楽人:レシピ提案、普及を ビーガン認知度向上へ起業 神戸大4年の工藤柊さん

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真っ赤なトマトを両手に、笑顔の工藤さん=本人提供

私たちは普段から動物、植物などさまざまな「いのち」を食料としているが、動物由来の食品を決して口にしない「ビーガン」というライフスタイルがある。このスタイルを実践しながら、ビーガン料理のレシピサイトの運営などを手がける株式会社「ブイクック」の代表取締役を務める神戸大学4年、工藤柊(しゅう)さん(21)に話を聞いた。【法政大学・平林花】

 工藤さんがビーガンとしての生活を始めたのは2016年、高3の時だった。きっかけは「図書館からの帰り道で車にひかれた猫を見たこと」だったという。何度も車にひかれペチャンコになった姿を見て衝撃をうけ、帰宅後、人に見捨てられた猫たちの運命について調べてみた。そして国内では当時、年間約7万匹もの犬や猫が、殺処分されている厳しい現実を知った。

 元々人間の生まれた国や性別による格差に問題意識があった。人間の一方的な都合で殺処分される動物たち、動物の種による命の格差への違和感から動物愛護に関心を広げ、調べていくうちにビーガンを知ったという。環境問題への関心も、ビーガンにつながった。食肉用に飼育される牛や豚のげっぷやおならから出るメタンガスは地球温暖化につながる。人間の欲求で牛や豚を大量に飼育することが環境破壊にもつながっているのだ。

 進学先も、神戸大学の国際人間科学部・環境共生学科を選択した工藤さん。大学でビーガンとして暮らす自身のスタイルを友人に語るうちに「自分も」と、ビーガンライフを始めてくれる賛同者が次々と現れたという。しかし、ほとんどは長続きしなかった。知識不足による食事のレパートリーの少なさや外食の店選びの難しさ、周りの人の無理解が大きな壁だった。工藤さん自身もビーガンとしての生活を始めた当初は「何を食べたらいいかわからず、2週間おにぎりなどで過ごした。情報のない中、スーパーでも何が買えるのかと悩んだこともあった」という。

 「ビーガンを実践したい人が諦めなくてすむ、そんな環境づくりをしたい」。工藤さんは自分にできる取り組みを少しずつ広げていく。大学では、ビーガンの商品を扱う企業と協力して食堂にビーガンメニューの導入を働き掛けた。18年11月には大学の枠を超え、誰もがビーガンを実践できる社会づくりを目指してNPO法人として活動を開始。さらに大学を休学して、ビーガンとしての知恵や知識を共有できるウェブサービスの事業化に乗り出し、今年4月に株式会社「ブイクック」を設立した。

 ブイクックのビーガンレシピサイトは今月1日に1周年を迎えた。投稿者によって作り上げられる同サイトには1200を超えるレシピが掲載されている。卵を使わないオムレツや、レモンジュースと豆乳を使った飲むヨーグルトなどの品々が目に入る。こうした「もどき」料理のほか、安心して使える調味料、だしなど検索欄も豊富だ。

 欧米諸国ではビーガン対応の外食店は多く、認知度も高い。日本でも有名人がビーガンであることを公にすることも増えているが、一般的にはまだ認知度は高くない。工藤さんの当面の目標は「ビーガンを始めたいと思ったときにブイクックのレシピサイトが手助けとなること」。“初めの一歩”のお供に最適なサイトにすることだという。「100人のうち1人が完全にビーガンを実践するのではなく、100人が週に1回でもできるイメージ。ひとつの食のジャンルとして受け入れられるようにしたいですね」と語る。

8月上旬出版予定の「世界一簡単なヴィーガンレシピ」(2400円、税別)

 8月上旬には新事業として、「世界一簡単なヴィーガンレシピ」を出版する。スーパーで買える材料を使って作れる100のレシピに加えて栄養情報も掲載。食生活の変化による健康への影響についての不安にも寄り添っている。料理専門家など15人と協力し30品はオリジナル。6、7品はスポンサーから、他はブイクックのレシピサイトから選んだ。「本はネットに比べ厳選された情報を得ることができる」と工藤さん。まさにビーガン初心者として、これさえあれば安心の一冊になっている。

 レシピ本出版の資金調達のために行ったクラウドファンディングでは目標を大きく上回る135%の達成率を記録した。その成果について工藤さんは「自分たちの取り組みが、社会から求められていることなのだと確かめることができました」とうれしそうに語った。

 「ビーガンには興味あるけど、何か大変そう」。まだそんなイメージを抱く人も多い。理解を深めるために記録映画をみたり、グーグルマップでビーガンと検索をかけて対応したお店を調べたり。「今日はブイクックをみて料理をしようかな」。そんな気軽な選択から始めてみたい。


 ■ことば

ビーガン

 動物由来の食品を完全に排除した食生活を実践することを指す。一般的に「菜食主義」と訳される「ベジタリアン」に似ているが、ベジタリアンには卵や乳製品などを食べる人もいる。一方、ビーガンは動物からとれるものは一切食べない。革製品やシルク、カシミヤなど動物由来の衣料も身につけない。

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