読見しました:「存在」

 人工知能(AI)の技術で再現した「AI美空ひばり」。その是非を語るラジオ番組を聴きながら、人でごった返す表参道を歩いていたのは2月のこと。手には、家で眠っていた古いフィルムカメラ。撮った写真が、デジタルデータではなく形になって残る。そんな当たり前のことにひかれて手に取った。

 行き先は、脇田あすかさんというデザイナーの個展。展示されるのは、彼女の日記などの記録をもとに描かれた人物のイラストレーションだ。好きなアーティストのグッズデザインなどで彼女を知り、興味を持った。

 真っ白な壁に並ぶ作品たち。人物は淡い色で描かれ、目鼻は描かれていない。それでも、なんだか存在感がある。なぜだろう。一歩踏み出して気づいた。ずっと平面だと思っていた作品たちに、層があった。

 描かれた人物の輪郭が、作品に貼られたフィルムの上にすっと引かれている。それが、彼女の出会った人たちの存在を強調しているように感じた。この人たちは、「いる」のだと。

 会場にいた脇田さんと話し、作品集「HAPPENING」(STAIRSPRESS)を買って帰った。

 データ上でしか会えない、大切な人たち。声やしぐさはデジタルで忠実に再現されるが、存在を感じるにはなかなか至らない。どうしたら「いる」ことを感じられるのか。写真の現像に外出するのもためらう日々に、そんなことを考える。【東洋大・佐藤太一】

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