会いたい人:CUBERS 末吉9太郎さん

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 「それなー!」の掛け声から始まる「オタクあるある」動画が話題を呼んでいる。投稿者は現役アイドルの末吉9太郎さん。末吉さんのアイドル論に心をつかまれた記者が、オタク兼アイドルとして歩んできた道のりを聞いた。【一橋大・川平朋花、写真は津田塾大・畠山恵利佳】


アイドルへの憧れ 原動力に

 末吉さんのオタク歴の始まりはモーニング娘。だった。幼稚園のお遊戯会で知った「LOVEマシーン」がきっかけでモー娘。ファンに。小学4年生のときに元モー娘。の後藤真希さんのコンサートで「モー娘。になりたい」という思いを強く抱いた。

 しかし中学校に入り、女性しか応募できないことに気がつく。そこで夢はモー娘。からアイドルへ。とはいえ、当時男性アイドルのオーディションはごくわずか。「最終的にアイドルになれれば」と役者、タレント、歌手など、さまざまなオーディションに応募を続けた。

 末吉さんによれば、アイドルは芸能界の他の職業と比べても「夢を見せる」という点で突出した存在。「歌って踊っておしゃべりもして、みんなの憧れですごい職業」と真剣な面持ちで語る。

 そんな熱量の一方、中高時代のオーディションは落選続き。大学は「武器」を作ろうと音大を選んだ。歌や作詞作曲、ピアノにギターと、学んだことは今も生きているという。

 ただ一番の学びは「なれ合いをしないこと」。「周りの人と肩を並べているのは安心感があるけれど、そうすると上にいけない」。音楽の道を志す人が多い空間にいたからこそ、その言葉には重みがある。

 3年生からは「環境からアイドルっぽくしよう」と、自前のライブやブログを始めた。ライブハウスの店長だけが見守る中、練習した楽曲やMCを披露する日々。本人は「やるしかなかった」と笑う。

 その裏にあったのは、年齢が上がることへの焦り、音大で目の当たりにした「卒業した時点で何かが決まっていないと厳しい」という現実。卒業までに所属事務所を決めたいという思いがあった。「オーディションは運とタイミングと審査員の好み。だから絶対に僕をとってくれる人もいるよねって思ってました」

 中学2年生からオーディションを受け続けること8年。大学3年生の終わり、ようやく合格したのが現在のグループ「CUBERS」のオーディションだった。

 2015年のインディーズデビュー後、他のメンバーは舞台などのソロ活動も行ってきた。しかし末吉さんにはソロの仕事がなかった。そこで目指したのがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で有名になること。日々写真や動画を投稿する中、19年夏にふと投稿した、握手会に並ぶファンをまねした動画が大きな反響を得た。

 以降、アイドルファンとしての経験を生かしたオタクあるある動画を投稿し続け、総再生回数は3億回を突破。「僕が大好きな王道のキラキラアイドルはこういう動画を上げない」と笑いながらも、拡散されるような動画のアップには余念がない。

 投稿動画はファンをばかにしているようにも見えると賛否が分かれる。しかし「キラキラアイドルだけでは外の人に知ってもらえない」と冷静な面持ちだ。「僕のファンにはごめんねと思いながら、やるべきことをやり、ステージではキラキラアイドルをテーマにしています」

 そのテーマにこだわるのは、自身がプロ意識の高いアイドルにひかれてきたから。ファンがアイドルのために予定を調整したり、地方のライブに足を運んだりする苦労もよく知っている。「愛情を送ってくれる人がたくさんいることを自覚しているかどうか」「ファンがいないとアイドルは成り立たない」。末吉さんの言葉の端々からは、ファンの存在を常に意識するプロ意識が感じられた。

 個人としてもグループとしても、まずは5月の国際フォーラムでのライブだと意気込む。グループのアピールポイントは「バラバラでふざけてる感」。「仲良くならなそうな子たちが本当に仲良くしているのは、この感じ見たことがないっていうふうに見えるんじゃないかな」

 最後に、理想のアイドルだという元ハロー!プロジェクトの鈴木愛理さんを100としたときの、現在の自己評価を聞いた。「10……10も行かないですね。9、9太郎だけに」。理想への道のりは長いようだが、日に日に注目を集め、着実に歩みを進めている。突き進み続ける姿は一瞬も見逃すことができない。


CUBERS(キューバーズ)
 2015年に結成した5人組ボーイズユニット。19年につんく♂作詞作曲の「メジャーボーイ」でメジャーデビュー。5月にはグループ史上最大キャパシティーの東京国際フォーラムホールCでのワンマンライブを控える。


■人物略歴:末吉9太郎(すえよし・きゅうたろう)さん
 1993年生まれ、千葉県出身。アピールポイントはライブでの表情。目指すアイドル像は「つい目で追っちゃう子」。趣味はアイドルの追っかけと「テラスハウス」を見ることだったが、「最近は起きてから寝るまで仕事のことを考えている」。

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