おすすめ恋愛作品

 14日のバレンタインデー、プレゼントを渡した、あるいはもらった人はどのくらいいるだろうか。今回はそんな時期にちなんで、キャンパる記者6人がおすすめの恋愛作品を選んでみた。小説や漫画、エッセーといったさまざまなジャンルからの、えりすぐりの6作品。初恋の切なさを描いたものから男女の思考の違いを解説したものまで、多種多様な切り口の作品がそろった。興味を持ったものがあれば、ぜひ手にとってほしい。(書名、著者名、出版社、発行年、価格の順。漫画の書影・発行年・価格は第1巻のもの)【まとめ、東京大・髙橋瑞季】


相手を思うということは

「勝手にふるえてろ」綿矢りさ(文春文庫) 2012年 605円

 自分が好きな人と自分を好きな人、どっちをとるか。ヨシカは中学生の頃から10年以上、脳内でイチに片思いをしている。そんな中、会社の同期でありヨシカのことが好きなニが現れ……。

 絶滅した動物を調べるのが好きでオタク気質なヨシカ。イチとの数少ない会話の記憶を脳内で再生し続け現実の恋愛とは程遠い生活を送る。一方全く好みではなく、むしろ嫌なところが目に付くニからの猛アプローチを受ける。ニは、ヨシカに変化をもたらすことができるのか。

 大学生になったタイミングでこの本と出合った。高校生までの自分本位な私とは異なる恋愛の考え方を知り新鮮な気持ちになったのを覚えている。「自分の純情だけ大切にして、他人の純情には無関心だなんて。ただ勝手なだけだ」。ヨシカの印象的な言葉だ。

 自分の気持ちばかりを優先させては相手との関係が成り立たないと気づけたきっかけでもある。相手を思うとはどういうことなのか考えたくなる作品だ。【法政大・平林花】


パートナーと出会う試練

「この人と結婚していいの?」石井希尚(新潮文庫) 2002年 605円

 10代で偏差値教育に疑問を抱き、フリースクールを設立。以降、牧師やカウンセラーを兼業し、多様な人々と接してきた著者が、男女の恋愛・結婚について述べている。「目標がないと行動できない男性とは違い、女性は感情や同情を分かち合うことを求める」。著者の言葉と自分の実体験が重なる部分があった。

 おととしの12月、当時付き合っていた彼女に振られた。前日のデートに不満を抱いたという。お台場をドライブし、予約したおしゃれなレストランで過ごした。何がいけなかったのか。

 一緒に過ごしたにもかかわらず孤独だったと、彼女は訴えた。

 当時、私の頭の中はデートを遂行することばかり。彼女の話を聞き流し、求められた共感を無視した。最近、偶然本書を手にし、著者の言葉に納得させられた。

 相手の気持ちをくみ取り続けることで、2人の恋は続く。「一生のパートナーは、この試練を乗り越えた者のみ出会える」と著者は教えてくれる。【国学院大・原諒馬】


一緒にいることで勇気を

「たいようのいえ」(全13巻)タアモ(講談社) 2010年 471円

 一緒にいることで、お互いに勇気をもらえる。そんな関係ってすてきだなと思わせてくれる漫画だ。

 幼い頃に両親が離婚し、父のもとに残った主人公真魚(まお)。高校2年生になった彼女には父の再婚により義理の母と妹ができるが、家の中に居場所を見つけられない。そんな彼女を見かね、7歳年上の幼なじみ基(ひろ)が自分の家に住まわせるという物語だ。

 基は真魚に居場所を与えるだけでなく、父・義母・義妹と対話するきっかけも作る。一方の真魚も、与えられるだけの存在ではない。基は3人きょうだいの長男で、両親を事故で失った過去を持つ。その後弟・妹とは別々に暮らすが、いつかまた同じ家に住みたいと思っている。その願いを後押しし、3人を再び結びつけるのが真魚なのだ。

 「基を守るたいようになるよ」という真魚の言葉。守られるだけでなく、自分もまた基を支えたいと誓う姿がまぶしかった。誰かを照らせるような強さを、私も持ちたい。【東京大・髙橋瑞季】


ふとした瞬間に思い出す

「プルースト効果の実験と結果」佐々木愛(文芸春秋) 2019年 1485円

 味や香りから、過去の記憶を呼び起こす。「プルースト効果」とはその現象のことで、表題作はふとした瞬間に「彼」を思い出してしまう女子高生の切ない恋愛物語だ。

 受験を控えた主人公と彼は、東京の大学合格を目指す同級生であると同時に、プルースト効果の実験仲間でもあった。試験前に記憶を呼び起こすべく、2人は図書館で勉強する時に必ず特定のお菓子を食べていた。4月、2人は別々の道を歩む。主人公は、彼とともに過ごした毎日を何度も何度も思い出す。

 東京に憧れ、絶対にすてきなところだと疑わずに勉強をする主人公たち2人と、地方から出てきた自分自身とが重なった。過去の記憶を思い出し、苦しくなる気持ちも。

 本作品は表題作含む四つの短編ラブストーリーからなる。恋を通して少女たちは一歩踏み出していく。読めばきっと、2人の心情に共感し、あの頃のまぶしい青春の記憶がよみがえる。【上智大・太田満菜】


恋を信じ切れない人へ

「やがて君になる」(全8巻)仲谷鳰(KADOKAWA) 2015年 627円

 昔から好きという気持ちがわからなかった。他人の好意も疑ってしまうし、キラキラした恋愛作品なんて程遠い存在。そんな私でも胸に染みたのが本作だ。

 主人公の小糸侑(こいとゆう)は誰のことも特別に思えない女子高生。優等生の七海燈子(とうこ)は、そんな侑だからこそと好意を抱く。特別に思わない、特別に値することを求めない侑の態度は、燈子にとって「そのままでいい」という許しなのだ。自分にだけは弱さを見せる燈子を支えようと、侑は一緒に生徒会で活動を始める。

 本作は人を好きになることを手放しに肯定しない。「私の好きなあなたでいて」と求めること、好きだからこそ変わってほしいと願うこと。その暴力性や傲慢さとも、彼女たちは向き合っていく。

 心の内では人を好きになってみたい侑と、「私のことを好きにならないで」という燈子。2人の矢印が向き合うことはあるのか。そして、彼女たちがどのような関係を選び、描くのか。恋を信じ切れない人にこそ、見届けてほしい。【一橋大・川平朋花】


等身大の女の子の気持ち

「だれかを好きになった日に読む本」より「吉沢くん」河野貴美子(偕成社) 1990年 1320円

 短編集の中の一作。この話との出合いは大学の児童文学の授業だった。クラスに気になる子がいる。その子に気付いてほしいけど……。小学生の頃、恋かどうかもよく分からない感情を持て余していた時期もあった。そんなもどかしい感情を持っていた頃を思い出させてくれたのがこの話。

 同じクラスの気になる男の子、吉沢くんにどうにかして気付いてもらおうと葛藤する女の子が書かれている。とにかく気付いてもらいたい。その一心から赤鉛筆を盗んでしまう女の子。もう少しやり方があるだろう、と思いながらも、小学生の頃なら自分もやってしまうかも、と思い返す。ストレートに書かれた等身大の女の子の感情に親近感を覚える。

 大学生になってから目の前のことばかりを追いかけて、小学生の頃の自分の気持ちなんて思い返すこともしなかった。本作を読みながら、たまにはランドセルを背負っていた頃の思い出に浸ってみるのもいい。【学習院女子大・田中美有】

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