すたこら:被災地で見た笑顔

被災地で見た笑顔

 先月、知人の誘いで福島県いわき市を訪れた。台風19号で浸水した農家の片付けを手伝うためだ。台風が去ってから6日目。災害から1週間足らずで被災地に足を運ぶのは初めてのことだった。

 氾濫した夏井川の近くにその家はあった。築100年近くの木造の旧家に、老夫婦が2人で住んでいる。1階の畳は既にはがされ、床下がむき出しになっていた。縁側には泥をかぶって駄目になった米。庭には水に流されてきた巨木が横たわっている。思わず息をのんだ。

 泥出しや家財の運び出しなど、黙々と作業する中でも、ほっと和む時間があった。長い間しまってあった器や写真が出てくると、思い出話に花が咲く。慌ただしい中でも奥さんは丁寧におにぎりを握り、遊びに来た孫たちが勢いよく頰張るのを、目を細めて眺めていた。旦那さんは農業の話になると、自慢の農作物について生き生きと語る。「うちは、冬野菜がうまいんだ」

 「頑張らなくちゃ」と力んでいた肩の力がすっと抜けて、いつのまにか一緒に笑っていた。

 生活の見通しが立たない中、ボランティアへの気配りも忘れない老夫婦。穏やかな笑顔の裏には、私には見せない不安やストレスもあるだろう。「頑張る」だけでは、きっと疲れてしまう。ささいな楽しみを分かち合い、ほっと一息つく時間も大切にしたい。

 今の私の楽しみは、「自慢の冬野菜」を食べに行くことだ。【一橋大・梅澤美紀】

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