仕事訪問 セーブ・ザ・チルドレン 大沼照美さん(30)

貧困と栄養問題、政府に提言 「自分は自由、何にでも挑戦」

 さまざまな分野で活躍しているキャンパるのセンパイを訪問する「仕事訪問」。今回はセーブ・ザ・チルドレンで政策提言、情報発信などを行うアドボカシー・オフィサーを務める大沼照美さん(30)を訪ねた。【法政大・平林花、写真は学習院女子大・田中美有】


 セーブ・ザ・チルドレンは、緊急・人道支援や保健・栄養、教育などの分野で、日本を含む約120カ国で子ども支援を行う国際NGOだ。大沼さんはアドボカシー・オフィサーとして、来年12月に日本主催で行われる「栄養サミット」に向け、主に日本政府に対して政策提言を行っている。

 世界では今も5歳未満の子どもの死因の45%が栄養不良といわれる。2017年には、世界の人口の9人に1人が飢餓に苦しんだ。偏った栄養による貧困地域での肥満も問題になっている。このような状況下で大沼さんは、今まで世界的に注目されてこなかった栄養問題の重要さを訴えている。

 大沼さんは元々国際協力に関心があり、セーブ・ザ・チルドレンの前は国連ボランティア計画(UNV)西・中央アフリカ地域オフィス(セネガル)での広報官を務めていた。セネガルには35の国際機関があるが、当時、アジア人広報官は大沼さん一人だった。英語もフランス語も堪能とはいえ、ともに母国語ではない大沼さんがアフリカ地域の広報として働くことは容易ではなかった。「地域性の違いや言語の壁があったが、大きなやりがいを感じた。同時に、広報だけでは今後国際組織でのキャリアを積むのは難しいと思った」。そのため、よりダイレクトに政治政策に働きかけをするためにアドボカシーができる今の仕事を選んだ。

 「昨日の常識は今日の非常識」。国際的に働くことの大変さは言語の壁だけではない。UNVの前は在フランス日本大使館の広報として働いていた大沼さん。海外勤務の中で何度も習慣や価値観の違いに驚いた。例えば、会議での議論。日本と違って意見の衝突が多々起こる。「育った環境も意思表現の方法も違うため多様性を尊重することが大事だ」と気付いた。

 多様性とはみんなと仲良くすることだけでなく衝突をおそれないことだという。あなたと私は意見が違う、だけどうまく働ける方向を見つけましょうという問題解決能力が必要。人とのコミュニケーションの難しさを痛感した。

 海外に興味を持ったきっかけは、中学校時代から聴いていたNHKちきゅうラジオやニュース番組。海外旅行に行くお金がなくても、ラジオやテレビをつければ自分と遠く離れた世界各地の情報が入ってくる。大沼さんにとって、メディアは自分の世界を広げるための大切なツールだった。

 学生時代には英語や仏語を話す機会をつくるために在日大使館にアポイントメントをとり、個人的にインタビューをしていたこともあった。「せっかく面白い話を聞けたのに自分だけにとどめておくのはもったいない」と、情報発信ができるキャンパるに入った。現役時代には語学力を生かして米国女優のガボレイ・シディベさんに英語でインタビューを行い記事にしている。

 学生時代から国際的な仕事を意識して挑戦を続けている大沼さんにその原動力を聞いた。「自由がある人はその機会を最大限活用すべきだ」。学生の時にみたインドに住む少女のドキュメンタリーで社会や環境のせいでやりたいことができない、逆らえば殺されてしまう世界があると知った。一方、自分には選択の自由があると気づき、何にでも挑戦できると力がみなぎったという。

 就職活動がひかえる記者。選択できる自由を持つ今だからこそ、自分のやりたいことをやろう。背中を押された気がした。


■セーブ・ザ・チルドレン
 子ども支援活動を行う、民間・非営利の国際組織。1919年、英国人エグランタイン・ジェブにより創設。「ジュネーブ子どもの権利宣言」を起草。その理念は、国連の「子どもの権利条約」につながった。現在日本を含む29カ国の独立したメンバーが連携し、約120カ国で子ども支援活動を展開。

■人物略歴
 公的・民間の奨学金を得て高校、大学に進学。2012年、上智大学外国語学部仏語学科卒。メディアや日本政府機関に勤務後、パリ大学で修士号取得。在仏日本大使館、国連ボランティア計画(UNV)西・中央アフリカ地域オフィスを経て、19年から現職。「キャンパるでは、紙面づくりに学生らしく本気のぶつかり合いができて楽しかった」

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