学生新聞特集 慶応塾生新聞

 首都圏の大学から集まる学生記者が毎週、取材・執筆しているキャンパる。一方で、各大学の学生新聞(キャンパス紙)でも多くの学生記者が活躍する。今回10月の新聞週間に合わせ、伝統を誇る「東京大学新聞」と「慶応塾生新聞」を取材。日々の活動から学生新聞が向き合う課題について聞いた。【まとめ、一橋大・川平朋花】


「役立つ媒体」へ、SNS駆使

 「慶応塾生新聞会」(通称、塾生新聞会)の主な拠点である東京都港区の部室は、三田キャンパスからやや離れたビルの一室。決して広くはない部屋だが、多いときは20人弱の会員が集まる。

 創立当初から独立採算制をとる塾生新聞会は、大学からの資金援助を一切受けていない。企画の提案に始まり、編集から印刷所にデータを渡すまで、すべてが会員の手で行われる。フリーペーパーのため、新聞発行の資金集めを目的とした広告営業も、主要な活動の一つ。部室の家賃も自分たちで支払っているそうだ。

足で稼ぐ情報

 記事は、慶応大の注目ニュース、教授や同大卒の著名人へのインタビューなどさまざま。授業の空きコマに行きたくなる、おすすめスポットを紹介したこともある。日吉キャンパス(横浜市)に通う学生が、空きコマ時間内に電車で行ける東急東横沿線情報を取り上げたところ、多くの反応があったという。こうした足で稼いだ情報は、現役の塾生記者にしか発信できないものだ。今も昔も、塾生に有益なものを伝えたいという思いを土台に、会員たちは記事を作り上げている。

 20年前には公式ウェブサイト「Jukushin.com」の運用が始まり、紙面のみならず幅広いテーマの情報を発信し続けている。しかし、近年はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)での情報収集が増え、ウェブサイトの閲覧すら学生にとっては縁遠く感じるようになった。

 そのため、最近力を入れているのが、ツイッターでの情報発信だ。昨年から塾生新聞の公式アカウントとは別に、新たに広報アカウントの運用を始めた。そこで投稿された受験生応援動画は反響が大きく、SNSで学生にアプローチすることの手ごたえを感じている。「学生に読まれるメディアであり続けるために、媒体についても検討が必要だ」と、代表の満井崚さん(経済学部3年)は真剣な表情を見せた。

 そんな変革のさなかにある塾生新聞会は、今年で創立50周年。これを記念した2年がかりの「50周年プロジェクト」も進められてきた。企画では、かつて記者として活躍した卒業生へのインタビューや、初の本格的な動画制作を行った。学生への新たなアプローチ方法として、動画を運用する環境づくりにも焦点を当てている。

 今回制作した動画は、10分ほどの短編映画とコマーシャルの2本。映画の脚本は会員たちの記者経験がもとになっており、とある取材を通した人と人とのつながりが描かれている。これらの映像作品は、50周年のその先を見据える、塾生新聞会の決意表明でもある。

紙で残す特別感

 一方で、伝統を守ってきた会員たちの「今後も紙は作り続けたい」という意思は失われていない。モノとして手元に残すことで、そのときしか味わえない瞬間に特別感をもたらす喜びは大きい。慶早戦の見どころを伝える号外などがまさにそうだ。半世紀に及ぶ活動の節目を迎え、学生に必要とされる媒体の模索は続いている。

 他のメディア団体にはない、塾生新聞らしさについても話を聞いた。「私たちの知りたいことは、慶応生の知りたいこと。その共通点を生かせることかな」。編集局長の城谷陽一郎さん(経済学部3年)の言葉に、周りの会員も納得しているようだった。

 時代背景はさまざまだが、創立以来「不偏不党」を掲げ、偏りのない学生たちの声を拾うという立場から伝え続けてきた50年。時代のデジタル化に対応しながら、これから塾生新聞は学生たちにどう向き合っていくのだろうか。彼らが志すメディアの未来に、記者も期待を膨らませている。【東洋大・荻野しずく】

■慶応塾生新聞
 1969(昭和44)年創刊。3月を除く月刊で、発行部数は通常約9000部(最大約1万5000部)。ブランケット判、4~8ページ。三田、日吉、矢上の各キャンパス内での無料配布に加え、定期購読者への郵送を行う。

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