2019/06/18 読見

読見しました。:私の一杯

 ダイニングテーブルの一角でそれらはひときわ存在感を放っている。ドリップ式のコーヒーメーカーとコーヒーミル。コーヒーをたしなむ我が家にとって、欠かせないものだ。

 いつからか、自宅で豆をひいて飲むのが私たち家族の日課となっていた。昔は苦くて飲めないと言っていた私自身も、喫茶店でのアルバイトを機にそれを克服。抽出方法や豆の品種によって香りも味わいも異なる奥深さに、気づけばとりこになっていた。

 そんな我が家で長年お世話になっているのが、手動式のコーヒーミル。必要な分だけ豆を入れ、ゴリゴリと音を立てながらハンドルを回す。多少時間と労力はかかるが、コーヒーを本当に楽しみたいのなら、この手間を省くことはできない。ひきたての豆だからこそ出せる味があるのだ。私たちはもうとっくに、その味わい深さを知っている。

 今では「コーヒーいる?」と声をかけられるのが待ち遠しい。誰がいれようと自分の分だけでなく、家族みんなの分もいれる。その思いやりの一杯が、一日の疲れを癒やしてくれる。かぐわしい香りに満たされた空間は、家族との心地よいひとときだ。

 「おつかれさま」の代わりに、心を込めた一杯をいれよう。今日もまた、豆をひく音が夜の我が家に響くことだろう。【東洋大・荻野しずく】

PAGE TOP