2019/05/28 大楽人

空箱再生、アートの輝き 驚きの立体作品
神戸芸術工科大4年・河口晴季さん

 日常生活で目にするお菓子や日用品の空箱。これらを次々と、今にも動き出しそうな立体作品に変身させ、話題を呼ぶのは「空箱職人はるきる」こと、河口晴季さん(21)=神戸芸術工科大4年=だ。4月27日から今月12日まで、神戸市で開催された初の個展を訪ねた。【上智大・川畑響子】


不二家のペコちゃんの作品と並んで笑顔を見せる河口さん=兵庫県神戸市三宮のギャラリーで

 お昼時にもかかわらず、ギャラリーをのぞくと、小さな展示スペースは超満員。その中で、空箱の面影を残したユニークな作品19点が、存在感を放つ。訪れた人々は顔を近づけて鑑賞したり、写真を撮ったりして、空箱の大変身した姿に感動しているようだった。

 河口さんの作品の魅力は驚きの発想力。おじさんのロゴで有名なポテトチップス「プリングルズ」(ケロッグ)の箱はダンディーな紳士に、「ミルキーチョコレート」の箱に描かれた不二家のペコちゃんはキュートなアイドルに。ビスケット菓子「アルフォート」(ブルボン)の箱でできた緻密な飛行船など、生き物も乗り物もお手のものだ。

 こだわっているのは、元々のデザインを最大限生かすこと。イラストがはっきりしているものは「無理やり平面になっているけれど、元の形に戻したらこうだろうな」と発想するという。例えば、アザラシやウサギの写真が特徴的な「鼻セレブ」(ネピア)のティッシュケース。四角になって窮屈そうな動物たちを、生き生きとした本来の形によみがえらせた。

 制作方法は単純。河口さんによると、作品のイメージを頭に思い浮かべると、紙に描き起こすことなく、いきなりジョキジョキとハサミを入れ始める。ロゴや文字の使いどころにも配慮しつつ、細かい部品をつなげていく。制作時間は一つあたり5~20時間。立体感や躍動感のある作品を生み出してきた。


「プリングルズ」の空箱工作 投稿に30万「いいね」  

 河口さんが、ペーパークラフトに関心を持ち始めたのは幼少期。当時はやったNHKの教育番組「つくってあそぼ」で紙工作を紹介していたワクワクさんに憧れた。家にあるチラシで、戦隊モノのベルトや剣などを作っていたのが原点だ。

 中学生の時はサッカーに熱中したが、好きなアニメのキャラクターの切り絵を作るなど、紙工作は趣味の一つであり続けた。もともと好きなことは全力でやるタイプ。昔から好きだったペーパークラフトを続けたいと、高校、大学は芸術系の学校に進んだ。

 当初は切り絵の立体作品を中心に制作していた。空箱を使ったペーパークラフトの写真をツイッターに載せ始めたのは、昨年の夏ごろ。転機となったのは「プリングルズ」の空箱工作だ。ツイッターで30万件近くの「いいね」を集め、「空箱職人」として一躍有名になった。「ここまで反響が大きいとは予想していませんでした」とうれしそうだが、「これならいける」との確信も得た。それ以来1~2週間に一つのペースで作品を制作し、投稿している。

 制作発表の場とするツイッターの発信にも、こだわりがある。それは、変化の驚きを伝えること。投稿には必ず、元の箱と出来上がった作品の写真を並べる。誰にも身近な空箱が、芸術作品に生まれ変わる過程の面白さを届けるためだ。「誰かのツイッター上のエンターテイナーになれたらいい」と、現代ならではの目標を語った。


「みんなが面白いと思うものを作りたい」

 そんな河口さんは現在、神戸芸術工科大学アート・クラフト学科に通う4年生。立体作品に取り組むコースに所属しており、周囲は粘土や彫刻で卒業制作に取り組むが、河口さんは紙が素材。「僕だけペーパークラフトなので、机一つあればどこでも作れて楽ですね」と笑う。

ブルボンのアルフォートの空箱で作った飛行船

 大型連休を含め2週間にわたった個展では、全国各地から4500人を超える人が訪れた。大人だけでなく、「子供たちも『すごい!』と食い入るように見ていました」と話す家族連れがいたほど。来場者とも積極的に交流しようとする、河口さんの姿が印象的だった。

 今回の個展には遠方からの来場者も多く、今後の自信につながった。というのも、河口さんは、空箱職人として卒業後も活動を続けていくことを決心しているからだ。「みんなが面白いと思うものを作りたい」。理解しにくいアートではなく、周囲を驚かせる身近なアートを届けたいという思いがある。

 3月にはマクドナルドから依頼を受けて新パッケージの作品を作った。商品の宣伝に一役買うなど、企業とのコラボも進んでいる。

 個展終了後には、自身のツイッターで次回の開催を示唆し、こう呼びかけた。「半年後に東京でお会いしましょう」。ユニークな「空箱職人はるきる」としての活動は、まだ始まったばかりだ。


 ■人物略歴:かわぐち・はるき
 名古屋市出身。神戸芸術工科大学アート・クラフト学科フィギュア・彫刻コース4年。「空箱職人はるきる」の由来は、本名と「貼る・切る」にかけた。ボードゲームも趣味で、サークルを立ち上げるほどの熱中ぶり。その一種「ごいた」の全国大会では昨年優勝の実力者。

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