2019/05/07 おすすめ本

新入生へこの一冊

 「令和」最初の大型連休も明け、新入生たちにとっても、本格的なキャンパス生活が始まる。今回、キャンパる記者6人が自身の学部や専攻に関係する、おすすめの1冊を紹介する。学んでいる分野が近い新入生は、関心を深める取っ掛かりとして、読んでみてはいかがだろう。(書名、著者名、出版社、発行年、価格の順)【まとめ、成城大・風間健】


■1  国際系を学ぶキミヘ
「いま世界の哲学者が考えていること」
岡本裕一朗 ダイヤモンド社 2016年 1728円

 「大学に入ったら、正解なんてないことだらけだよ」。高校卒業のとき、親友の姉に言われた。模範解答のある問いに慣れていた私は、途方に暮れた。その年の春から学ぶのは国際系の学部。正解どころか、そもそも世界では何が問題なのかも分からない。

 そんなとき、高校の先生に薦められたのが本書。グローバル化やクローン人間など、ニュースで聞き流していたことが、なぜ、どのように問題なのか。読み進めるうちに、少しはつかめた気がする。

 哲学は、国際問題の解決に直結するわけじゃない。でも文中の言葉を借りれば、「少なくとも問題の所在については確認できる」。控えめな一言だが、ハッとさせられた。

 正解のない問いに向き合うときは、どこが問題なのかを知ることが大切だ。大学に入学し、世界が広がるなかで自分の意見を持ちたいと思ったら、この本をまず開いてみてほしい。世界が、どんなふうに今を見ているのか。それが分かるかもしれない。【筑波大国際総合学類・西美乃里】


■2 メディア系を学ぶキミへ
「別冊100分de名著 メディアと私たち」
堤未果、中島岳志、大沢真幸、高橋源一郎 NHK出版 2018年 972円

 メディアが多様化し、その存在意義が危ぶまれている昨今。私たちはどのように向き合ってゆけばよいのか? 古今東西の四つの名著を有識者が取りあげ、そのメッセージを読みとくヒントを与えてくれているのが本著だ。

 わが文化構想学部だけでなく、文学部系を選択した学生のなかにはなんとなくメディア業界に憧れを持っている人もいるだろう。そんな人たちにはこの本に登場する名著はいまいち「面白く」はないかもしれない。しかし、先人たちが示してくれた「形のないものへの向き合い方」は、新しい学問を学ぶ私たちに大切な視点を与えてくれる。

 大学は、高校までと違って自分からつかみとろうとしなければ、誰かが手を差し伸べてくれる場所ではない。しかし、一度扉をたたけば、今まで見たことがないような世界を見ることができる場所だ。この本が名著に触れるきっかけとなり、新しい視野を獲得するための礎となればうれしい。【早稲田大文化構想学部・今給黎美沙】


■3 土木・環境系を学ぶキミへ
「ようこそドボク学科へ!都市・環境・デザイン・まちづくりと土木の学び方」
監修・佐々木葉 学芸出版社 2015年 1944円

 「環境」や「社会」などの言葉につられて今の学科に入った君。そろそろお気づきではないだろうか。ここは、実はドボク学科だということに。

 私も入学当初、その事実に驚いた。授業の内容も、想定外のことばかり。不安を感じ始めたとき、この本に出合った。

 本書では、学生生活から就職についてまで幅広く触れている。さらに、この世界で生きるうえで身に着けておくと良い、構造物や景色の楽しみ方の紹介も。「橋は上を向いてくぐろう」「ダムはオーケストラだ」など、興味深い見出しも魅力の一つだ。

 特に面白いのは「ドボク的日常生活」の章。ファッションや映画の楽しみ方など、一見関係なさそうなことの見方を変えてくれる。

 橋やコンクリートだけがドボクじゃない。この本はきっと、それに気づくきっかけになるだろう。

 え? なぜここまでずっと、「土木」と表記していないのかって? それは本を読んでのお楽しみだ。【早稲田大創造理工学部・廣川萌恵】


■4 法学系を学ぶキミへ
「否定と肯定ホロコーストの真実をめぐる闘い」
デボラ・E・リップシュタット、山本やよい訳 ハーパーbooks 2017年 1290円

 「正義の実現」。法学部生は、この言葉を必ず聞くだろう。何のために法はあるのか、という問いに対する一つの答えとして。

 本作が映画化されたのは、ブレグジット(英国の欧州連合<EU>離脱)が決定し、トランプ米大統領が当選した2016年。私も映画を通してこの作品を知った。舞台は00年の英国の裁判。法廷に立ったのは、著者である女性歴史学者。議論の対象は、ナチス・ドイツによる大量虐殺、ホロコースト。法廷戦略として、裁判中の発言はすべて弁護士に託される。相対する否定論者が持論を展開し、ユダヤ人の歴史や社会に対する侮蔑の言葉が発せられる中でも、彼女は沈黙を貫く。声を上げることのできなかった被害者たちと同じく。

 異なる意見と向き合うのは、容易ではない。しかし本作は、知性、情熱、団結といった武器を教えてくれる。きっと、デマや偏見があふれる現代において、「正義の実現」を達成するための道しるべとなり得るはずだ。【東洋大法学部・佐藤太一】


■5 理数系を学ぶキミへ
「左京区七夕通東入ル」
瀧羽麻子 小学館文庫 2012年 669円

 恋にはライバルがつきもの。好きな人の元カノや幼なじみの女の子……、時には趣味や仕事ということもある。それが「数学」だったらどうだろう。

 物語の主人公「花」は、はやりものやおしゃれが大好きな文学部の4年生。就職先も決まり、残りの学生生活を満喫していた。そんな年の七夕の夜。友人から誘われ参加した合コンで、理学部の数学科に通う「たっくん」と出会う。

 花は彼のもつ独特な雰囲気にすぐにひかれる。少しずつ距離を縮める2人だったが、一つ問題が。たっくんは一度数学の問題を考え始めると、取りつかれたように熱中し、現実世界を忘れてしまうのだ。

 登場する理系男子たちは皆、負けず劣らず個性的。そんな彼らと過ごす、花の最後の青春が京都を舞台に描かれる。女子大の数学科に通う記者にとっては、憧れの学生生活が詰まった恋愛小説。

 だが私も「ライバル」に勝てる自信はない。数学には人の心をつかむ魅力があるからだ。【津田塾大学芸学部・畠山恵利佳】


■6 社会学系を学ぶキミへ
「弱いつながり-検索ワードを探す旅」
東浩紀 幻冬舎 2014年 1404円

 友達の間で話題になっているパンケーキの店。初耳のあなたは、すぐさまグーグルで検索。次に調ベ物をするときは、「パンケーキだったらこんなお店もあるよ」と言わんばかりにグーグルは予測検索をしてくれる。

 人々の知る世界は所属する集団--例えばパンケーキに目がない大学生集団--から得た情報に始まり、グーグルの想定内に収まる。そんな統制された世界から逸脱する方法を説く。答えは「旅」に出ること。「グーグルが予測できない言葉」を探す旅である。

 強いつながりに囲まれた人間関係を意図的に断ち切り、偶然の出会い--「弱いつながり」に身を委ねてみる。筆者は台湾・福島・韓国・バンコクなど、旅先での出会いや発見をつづる。そこには偶然の上に成り立つ人生の豊かさが示唆されている。

 部活・アルバイト・ゼミなど、さまざまなコミュニティーに属する大学生。そこでの人間関係に必要以上に縛られてはいないか。本書が新しい世界への一歩になるかもしれない。【一橋大社会学部・梅澤美紀】

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