2019/04/23 大楽人

テクノロジーで政治の仕組みを変える
20歳学生起業家、伊藤和真さん

 2019年は統一地方選挙や参院議員選挙などが並ぶ選挙イヤーだ。そんな政治の仕組みを、テクノロジーを使って変えようと挑戦する学生起業家、伊藤和真さん(20)を取材した。【上智大・川畑響子、写真は成城大・風間健】


 17年10月の衆院議員選挙。当時19歳の伊藤さんは候補者の街頭演説を見て「全然イケてないな」と感じたという。演説を立ち止まって聞く人は少ない。同時に「市民が政治に直接意見できる場が日本には少ない。なんとなくの不満はみんなあるはず」。そこに着目した。

 伊藤さんは慶応大学の現役学生で、自ら代表を務める株式会社PoliPoli(ポリポリ)を18年2月に設立した。メンバーは全員学生で7人。「テクノロジーで国家システムを再構築する」ことを目指し、同じ大学の友達2人と作ったアプリ「PoliPoli」の開発・運用が主な事業だ。

議員と市民、直接議論「PoliPoli」

 このアプリは市民と議員が街の課題を共有し、議論できるのが最大の魅力。例えば、自分の住む地域の喫煙所が汚いといった身の回りの課題を投稿。多くの共感が集まると、登録している政治家を招待して話し合うことができるという仕組みだ。

 利用者は現在1万5000人近くに上り、若者が7~8割を占める。政治家は約350人が登録しており、国民民主党代表の玉木雄一郎氏や沖縄県知事の玉城デニー氏など著名な政治家や、国会議員、首長、県市町村・区の議員などさまざまだ。


PoliPoliには、市民から政治に対する意見が多数寄せられている(スマートフォンの画面)=写真は一部加工しています

 実際にPoliPoliで集まった意見は政治の場にも届いている。東京都港区では、区議会議員がアプリの画面をフリップにし、寄せられた意見を引用しながら議会で発言。また神奈川県議会は特定の課題について意見を募り、アプリ内で共感が集まった考えを担当課に届けるキャンペーンを複数回実施した。

 従来は市民の意見を議会に届けるまでに相当な時間と労力が必要だった。そんな民意の届きにくいシステムをPoliPoliが変えつつある。

 しかし「まだまだ課題しかありませんね」と伊藤さん。アプリ自体の認知度は低く、人々のニーズに応えられていない。若手起業家として注目されることも多いが、まだ何も成し遂げていないと感じているそうだ。

 もっとみんながワクワクするようなサービスを作りたい。そのために地道に利用者の声を聞くことを心がけている。政治について「どうせ何も変わらないと思ってしまう」と正直な感想を抱く記者に対して、「そこなんです」と語気を強める。政治への不満や不信感をサービスで解消できるのでは。彼はその可能性を信じている。

 伊藤さんが起業家の道に足を踏み入れたのは、大学1年生のとき。趣味の俳句を発信、共有できるアプリ「てふてふ(のちに毎日新聞社に売却)」を作り、話題を呼んだのがきっかけだ。その後アプリ開発事業の設立に関わったり、インターンシップでは自己の裁量でベンチャー企業への投資を経験したり。新しいサービスで世の中を変えていく面白さを知ったという。

アプリで「政治革命を」

 ただ、政治界に革命を起こそうという発想に関しては、業界の知り合いほぼ全員から猛反対を受けた。政治はビジネスに向かない、政治家の発信は政党色が強くなる、などの指摘だ。それでも伊藤さんは、前例がないからこそ挑戦する意味があると考える。「この政権ダメとか、この街は住みにくい、とか言うだけでは意味なくて。じゃあどうしよう、という点まで自分ごと化して、みんなが考えられるようにしたい」と語る。

 しかし自身については「人生毎日悩みばかりです」と苦笑いする。起業家はお金や人々の期待を背負いながら、常に決断しなくてはならない。その上成功するのはほんの一握りだ。ふんわりとした笑顔が印象的ながらも、常に会社や自分と向き合っている。

 一方、日常生活では「友達が減りましたね……」と学生ならではの悩みも。気さくに受け答えしてくれる姿からは想像がつかないが、同世代と話題が合わないのが大きいようだ。常に考えるのは仕事のことばかり。そのため大学に行く時間があまり取れず、ギリギリ3年生に進級できたと安堵(あんど)の様子だった。

 ここまで悩みながらも頑張れるのはなぜか。伊藤さんは即答する。「やっぱり楽しいからです。挑戦するたびに発見がある。特にいい反応を聞けるとうれしい。やめられないですね」。本気で仕事をするとはこういうことなのでは、と感じるそうだ。

 今年はPoliPoliにとっても大事な1年と位置付けている。まずは今月の統一地方選挙に合わせ、学生団体で投票を呼びかける「ivote」と協力して選挙区ごとの争点をまとめた特設サイトを開設。「候補者の選び方がわからない」という声を受け、判断基準の一つを提示したいと考えた。夏に予定されている参院選についても「いろいろと仕掛けるので楽しみにしてください」と自信をのぞかせた。

 「つらいことも多いけど毎日楽しいし、確かに世の中は良くなっている。自分たちのサービスで政治に対しても希望を持たせられたらいいなと思います」。伊藤さんが語る目標に、記者もワクワクを抑えられなかった。


■人物略歴:いとう・かずま
 1998年生まれ。慶応大学商学部3年。これまでアルバイトをしたことがなく、おしゃれな学生バイトの定番であるカフェの店員に憧れている。

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